格闘技・プロレス

女子プロレス界の人間国宝・高橋奈七永を“介錯”した青野未来 「今しかない」に賭けた闘い「あなたのおかげで知らなかった自分が出せた」

橋本宗洋

2025.06.04

高橋奈七永(右)の引退試合で“継承”を果たしてみせた青野(左)。今後がさらに注目されるレスラーだ。写真:橋本宗洋

"女子プロレス界の人間国宝"高橋奈七永が28年の現役生活を終えた。引退興行は5月24日、代々木第二体育館。所属するマリーゴールドの旗揚げ1周年記念大会でもあった。

【画像】青野未来がリングで雄叫びを上げる!
 引退セレモニーには、デビューした全日本女子プロレスで苦楽を共にした面々をはじめ豪華な顔ぶれが揃った。もともと、マリーゴールド入団は引退を見据えてのもの。あらゆる意味で悔いの残らない引退だったはずだ。
 

 そんな中、多くのファンにとって意外だったのは、引退試合の相手が青野未来だったことではないか。

 初代ユナイテッド・ナショナル(UN)王者の青野だが、アクトレスガールズからのマリーゴールド移籍ということもあって奈七永との関係性は薄かった。団体内の若手には奈七永と対戦し、大きな影響を受けた"奈七永チルドレン"呼ぶべき選手も多い。

 一方で青野が奈七永とシングルで対戦したのは一回だけ。昨年のシングルリーグ戦だ。結果は15分時間切れ引き分け。当時UNチャンピオンだった青野だが、ドローにもっていくのが精一杯だったという。

「一つひとつの攻撃の強さだけじゃなく、エネルギーみたいなものが桁違いでした」

 青野の性格からすると、そう簡単に「もう一度」とは言えなかったのだろう。しかし奈七永は引退を表明、カウントダウンに入る。青野は高橋奈七永自主興行に参戦すると、恩人・堀田祐美子に実力を認められた。

「これから(高橋奈七永の代名詞)パッションはお前が背負え」

 青野は堀田の言葉に背中を押されたという。引退試合での対戦を要求。記者会見では奈七永に思い切り張り手を叩き込み、「私がパッションを注入してやる」と豪語した。結果を出しながらも「自己主張が薄い」と言われてきた青野。そんな印象を捨て去る絶好の機会が、この高橋奈七永戦でもあった。

「今しかない」

 強い覚悟とともに奈七永と対峙した青野は、これまで見たことがないほど逞しかった。得意の蹴りが重い。張り手の打ち合いでもまったく引かない。ラストマッチの奈七永はやはり強く、だからこそ青野の芯が太い闘いぶりも目立った。

 必殺技にしてきたスタイルズ・クラッシュはカウント2。だがそこで攻撃が終わらない。頭突き、蹴りを乱打すると奈七永の必殺技ワンセコンドEX。驚きの3カウント奪取は"継承"の儀式でもあった。今後はこの技を受け継いでいきたいと青野。

「あなたのおかげで、自分でも知らなかった青野未来が出せた」

 青野は高橋奈七永というレジェンドを引退試合で"介錯"しただけでなく、新たな自分を開拓してみせた。もちろん緊張もプレッシャーもあった。高橋奈七永の最後の対戦相手というのは、本当に重い役目だ。けれど「それを乗り越えたから、大きなものを得られた」と青野は言う。

 タイミングとしてはギリギリだったが、高橋奈七永の引退試合の相手に名乗りをあげて、他の誰にもできない仕事を完遂した。高橋奈七永という巨大な存在は引退した。そこから、今度は青野未来の新しい物語が始まるのだ。それが、奈七永が最後に残した"パッション"だったとも言えるだろう。

取材・文●橋本宗洋
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