専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
その他

【名馬列伝】「幻の三冠馬」とも呼ばれたアグネスタキオン。太く短い“超光速粒子”で駆け抜けた競走馬の一生

THE DIGEST編集部

2023.06.16

 辛口で知られる長浜が「三冠を取れる可能性がある馬だ」と公言するようになったアグネスタキオン。主役の3歳初戦は3月の弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)となった。ただし、初めて経験する関東への輸送があったうえ、馬場は大雨でタフさが要求される不良になったことが心配されたが、それは杞憂に過ぎなかった。

 アグネスタキオンは悪条件をまったくものともせず、直線で3番手から楽々と先頭に立つと、2着のボーンキングに5馬身もの差を付けて快勝。ちなみにこのとき、のちに菊花賞と有馬記念を連勝するマンハッタンカフェもいたが、1秒以上の差を付けられた4着に終わっている。

 迎えた皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)。アグネスタキオンは当然のごとく単勝1番人気、オッズ1.3倍という断トツの支持を得てレースに臨んだ。

 ここでも彼は無双の走りを見せる。先団の5番手という好位置を進み、第3コーナーから徐々にポジションを上げて直線へ向くと、あっさりと先頭に躍り出て勝負を決める。1馬身半差の2着に追い込んできたダンツフレームも、大勢が決してから差を詰めてきたに過ぎず、ジャングルポケットも3着まで上がるのが精一杯だった。

 レース後にインタビューを受けた河内は、「オッズがオッズだけに、お兄さんのとき(アグネスフライトの日本ダービー)とは違って、勝ててホッとしました」と語ると同時に、「でも、今日は本当の強さを出し切ってはいない」とも口にし、報道陣を驚かせた。

 しかし、それはやがて明らかになる凶事の前兆だったのかもしれない。
 
 日本ダービーを目指して調整を進めていたなか、5月2日に左前浅屈腱炎を発症していることが判明。いったん北海道へ放牧に出されたが、関係者の協議により現役を引退することになり、種牡馬入りが決定した。

 のちに「幻の三冠馬」とも言われるほどの能力を見せてターフから去ったアグネスタキオンは、種牡馬としても大成功を収める。有馬記念などGⅠレースを4勝したダイワスカーレットをはじめ、NHKマイルカップと日本ダービーの変則2冠を達成したディープスカイというトップ・オブ・トップの産駒を送り出したほか、GⅠ勝ち馬だけでも10勝(6頭)を数えた。

 また2008年には、内国産馬としては1957年のクモハタ以来51年ぶりとなるJRAのリーディングサイアーに輝き、種牡馬としても頂点を極めた。しかし、2009年の種付中に心不全で急死。多くのファンを悲しませただけではなく、まだ11歳という若さだっただけに、日本の競走馬生産にとって極めて大きな損失となった。

「タキオン」とは物理で使われる「超光速粒子」のこと。その名の通り、競走生活もまた種牡馬としても、光速ばりのスピードで駆け抜けた一生だった。

 最後に余談だが、オーナーの渡辺が用いた冠号の「アグネス」は、1970年代にアイドル歌手として活躍したアグネス・チャンの名前から取られたもの。一説によると、彼女のファンだった渡辺の娘が薦めたとも伝わっている。(文中敬称略)

文●三好達彦

【関連記事】GⅠ馬10頭が揃う激戦を制したのはソングライン! 長距離遠征後のマイルレース連勝に導いた厩舎スタッフを称賛したい!!【安田記念】

【関連記事】「スキルヴィングは素敵な馬」天に召された“相棒”へ、ルメール騎手が哀悼の意。悼む声止まず「悲しすぎる」【日本ダービー】

【関連記事】「日本ダービーへ進む選択肢も“あり”では」6馬身差の完勝で蘇ったリバティアイランドに抱いた”桜の衝撃”【オークス】
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号