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【MLB今日は何の日】テロに傷付いたボストン市民を一つにしたオティーズの“掟破り”のスピーチ

2020.04.20

レッドソックス3度の世界一に貢献した“ビッグ・パピ”だが、このスピーチこそが最大の功績だとの声すらある。(C)Getty Images

 アメリカは「自由の国」と言われるが、実は放送コードには厳しい面もある。一般のテレビ放送でいわゆる四文字言葉を使うのはタブーとなっていて、普段は口の悪い荒くれ者もカメラの前ではお行儀良く振る舞う。

 しかし2013年4月20日、"ピッグ・パピ"の愛称で知られるデビッド・オティーズ(ボストン・レッドソックス)は"掟破り"のスピーチで驚きと喝采を集めた。

 その5日前、ボストン市民は恐怖におののいていた。毎年恒例のボストンマラソンで爆破テロが発生。5人が死亡し、299人が負傷した。この日、事件後初めて本拠地フェンウェイ・パークでホームゲームを行うことになったレッドソックスは、試合前のセレモニーで怪我人の救出や犯人捕獲に従事した地元の消防士や警官たちを称えた。レッドソックスのユニフォームの胸文字は、いつもの「RED SOX」ではなく「BOSTON」と書かれていた。
 
 そこでマイクを握ったオティーズは、市長や知事、警察官たちに感謝を述べた後にこう言い放ったのである。

「This is our fucking city. And nobody's going to dictate our freedom. Stay strong.」

「ここは俺たちの街だ。俺たちの自由は誰にも邪魔させない」という力強いメッセージに、"fuckin'"という言わば最上級の強調句が加わったこのスピーチを耳にした3万5152人の観衆は、まさかの放送禁止用語に驚きつつ、オティーズに大歓声を送った。

 オティーズいわく「テレビで全国中継されていることはすっかり忘れていた」。あの瞬間、頭に浮かんだことがそのまま口に出た。だからこそ、歴史に残る名スピーチとなったとも言える。彼の言葉は、一流のスピーチライターが美辞麗句をちりばめたまとめたどんな原稿よりも的確に「テロには絶対に屈しないぞ」というボストン市民の心意気を代弁していたのだ。