プロ野球

【野球人が紡ぐ言葉と思い】「ここぞという時以外は打たせて取るようにしたい」――吉田輝星が甲子園で見せた“高等技術”

氏原英明

2020.05.25

高校生離れしたギアチェンジの高等技術で、吉田は18年夏の甲子園で大会記録となる4試合連続2ケタ奪三振を奪った。写真:朝日新聞社

「ここぞという時以外は打たせて取るようにしたい」(吉田輝星)

 2018年夏の甲子園で準優勝を果たした金足農高の中心にいたのが、エースの吉田輝星だった。5試合すべてに先発。決勝戦を除く全試合で完投勝利を挙げる、まさに力投ぶりだった。

 その吉田が大会中に見せていたのが、打者の手元でホップするような150キロのストレートを持ちながらもそれを多投しないピッチングだ。相手打者や打順の巡りを見て、それぞれギアを入れ替えていたのだ。本人いわく「3段階くらいある」器用なギアチェンジだった。

 ピンチで三振を取りたい時はギアを上げ、それ以外は余力を残すように投げる。対戦相手の打者たちは、そんな巧みな投球術に見事はまっていた。高校生にして、これだけ変幻自在にギアを入れ替えるセンスを持っている投手はなかなかいない。

 吉田の場合、ギアチェンジをする理由は意外なものだった。公立校の金足農高では他に一線級の投手がいないため体力温存を狙っているのかと想像したが、吉田はかぶりをふってこう言った。

「長いイニングを投げないといけないというのももちろんありますけど、それよりも、三振ばかりを取っていると、急に打球が飛んできて野手の身体が動かない時がある。だから、なるべくここぞという時以外には打たせて取るようにしているんです」
 
 金足農高が決して吉田のワンマンチームではなかった背景には、こうしたピッチングスタイルが影響していたのかもしれない。吉田は野球がチームスポーツであることをよく理解していたのだろう。

 とはいえ、ギアチェンジはそれだけでもかなり高等技術である。若い投手は、ギアの入れ替えをするにしても思わず力んだりして上手くいかないものなのだが、吉田にはそれさえ難なくこなすセンスがあった。

「ギアを上げるというのは力を入れるということではないんです。身体の使い方を大きくしたりして変えたりすることです。ギアを入れようとすればするほど、力んじゃうことがあったので、力まないためにボールを前で離す。叩きつけるイメージを持って投げています。ここは絶対に抑えなきゃいけないバッターの時はそうしています」

 一軍デビュー戦となった昨年6月12日の対広島戦で、吉田は早くもその技術の片りんを見せている。初回に早くも一死満塁のピンチを招いたが、そこでギアを入れて5番・西川龍馬から空振り三振を奪った。続く磯村嘉孝も三塁ゴロに打ち取ってこの回を無失点で切り抜け、最終的には5回1失点の好投で初登板初勝利を手にしている。

 シーズントータルでは一軍4登板にとどまったが、高校時代から培ったセンスは確かに健在だ。数年後にはきっとチームの軸として活躍してくれるに違いない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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【動画】これぞ吉田のギアチェンジ! 一軍デビュー登板で西川から奪った三振