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プロ野球

【野球人が紡ぐ言葉と思い】「インパクトの集中力は人一倍持ってやっている」――“神走塁”を生んだ今宮健太の守備への集中力

氏原英明

2020.05.22

17年の日本シリーズで見せた“神走塁”も、今宮の守備に対するこだわりから生まれたものだ。写真:朝日新聞社

17年の日本シリーズで見せた“神走塁”も、今宮の守備に対するこだわりから生まれたものだ。写真:朝日新聞社

「インパクトの集中力は人一倍持ってやっている」(ソフトバンク・今宮健太)

 プロ野球を見ていると、これぞ「プロ」というプレーに遭遇する時がある。ファンにとってはその時こそまさに至福の瞬間だ。

 自分が記憶している中で、真っ先に出てくるプレーは、2017年の日本シリーズ第2戦において今宮が見せた好走塁だ。DeNAの1点リードで迎えた7回裏、ソフトバンクは2死満塁の好機をつかむと、5番・中村晃がカウント1-1からパットンのチェンジアップを捉え、右翼前へ痛烈なタイムリーを放った。三塁走者だった柳田悠岐は悠々と生還。だが、二塁走者だった今宮の走塁がこの試合の雌雄を分けた。

 二死だったため、今宮はインパクトの瞬間にスタートを切っていた。DeNAの外野陣は前進守備。捕球した梶谷隆幸は強肩で、山なりの大遠投ではなく低い弾道でキャッチャーめがけて送球した。受け取った捕手の戸柱恭孝も素早くタッチにいき、球審は一時アウトを宣告した。しかしリプレー検証の後で、判定が覆った。

 論議を呼んだ判定ではあったが、そもそも本来ならこの状況で今宮が生還できるはずはなかった。通常、二塁走者をホームで仕留める場合、バットのインパクトからホームに返球してアウトにできるタイムは6.5秒がデッドラインとされている。アウトカウントやシチュエーションによって前後するとはいえ、この時の梶谷の返球は6秒を大きく切っていた。間に合うはずのないタイム。だが、判定は最終的にセーフになった。今宮はのちにこう振り返っている。
 
「2アウトだったので、ボールがバットに当たるインパクトの瞬間だけを集中していました。インパクトの瞬間が空振りだったら戻っていたし、バットに当たれば走る。インパクトでスタートするというのは誰でもできることなんですけど、そこの集中に関しては、僕は守備からずっとやっていること。それが今日は走塁に生きたと思う」

 今宮といえば、13年から5年連続でゴールデングラブ賞を獲得した守備の達人だ。俊足を生かした守備範囲の広さは誰もが知る彼のセールスポイントだが、それは単に脚力だけのものではない。インパクトの瞬間に対する“反応”こそ、今宮が何よりこだわっている点なのだ。そこに対する集中力が、この場面では走塁に生かされた。結局、この1点が決勝点となって、ソフトバンクは2連勝。日本一へ大きく前進した。

「いつもやっている、当たり前のことをやっただけなんですけどね」

 サラリとそう言ってのけた今宮に、プロフェッショナルの姿を感じた。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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