チームを支えるのは何もスター選手だけではない。絶対的なレギュラーでなくとも、率先してベンチを盛り上げたり、どんな役割もこなす選手もまた、必要不可欠な存在だ。19日に開幕するプロ野球。異例のシーズンだからこそ、各チームの幹となる「縁の下の力持ち」に注目してほしい!
◆ ◆ ◆
「キャッチャーは大変です。ポジションが一つしかないのでね、やっぱり」
2013年ドラフト6位で大阪ガスから西武に入団し、控え捕手としてチームを支えてきた岡田雅利がそう話していたことがある。
高卒6年目の森友哉が126試合で先発マスクをかぶってシーズンMVPに輝いた昨シーズン、「第二捕手」としてリーグ連覇に貢献したのが岡田だった。左親指の負傷で36試合の出場にとどまったものの、130万円アップの推定年俸3000万円で契約更改したことが、球団からの評価を物語っている。
「球団からは『森が成長したのも岡田のおかげ』と言ってもらえました」。岡田は森の6歳上で、ともに大阪桐蔭高校出身だ。練習でのキャッチボールはいつも二人で行い、森がタメ語で話しかけるなど、公私ともに近い距離にいる。
岡田が捕手・森の存在感を大きく感じ始めたのは、18年シーズンだった。
「以前は配球について『こういう球を要求したらこんな結果になったんですけど、どうでしたか?』と聞かれることが多くあったんですけど、最近は『今の打席ではこういう球で詰まらせました。次の打席、どうなりますか?』というところまで聞いてこられるようになって、『ちょっと待てよ』と(笑)。『これで抑えられました』から会話の内容が変わってきたので、『ああ、大きな壁になってきたな』と」
森は一つのポジションを争うライバルだが、同時に後輩であり、ともにチームの勝利を目指す仲間でもある。複雑な関係だが、それでも思ったことを正直に話すのは岡田の人間性だろう。それは投手陣に対しても同じで、特に若手には積極的に話に行く。
「うちの若手は、『インコースで行きたい』と言っていたからサインを出すと、首を振ってしまうことが多くあります。だからしっかりおさらいをして、次に生かしてもらうように話しています。下にゴマをするわけではないけど、そのピッチャーがコーチから『試合で組むキャッチャー、誰がいい?』と聞かれた時、『こうやって言っていたから岡田さんや』となってもらえたらいいし」
スローイングやブロッキングなど捕手としての基本技術は高く、2年前から積極性を意識して打撃も向上した。もし他チームに移籍すれば、正捕手を狙えるだけの実力を備えている。そんな岡田が第二捕手に控えるのは、チームにとって心強い。以前、秋元宏作バッテリーコーチがこう話していたことがある。
「選手ってどうしても、試合の勝ち負けに慣れてしまう部分があるんです。第二捕手を使っていくメリットは、そうした中で二人の捕手が高め合っていけることですね」
新型コロナウイルスの影響で開幕が3ヵ月遅れた今季は、シーズン最後まで過密日程が続く。体力面やリード面を考えると、正捕手に続く第二捕手をいかにうまく起用していくかが、ペナントレースの行方を左右するだろう。
例年以上に、岡田に求められる役割は大きくなりそうだ。
取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。
【PHOTOギャラリー】球界を牽引する名手たちの「高校」「大学」当時を秘蔵写真で振り返る
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「キャッチャーは大変です。ポジションが一つしかないのでね、やっぱり」
2013年ドラフト6位で大阪ガスから西武に入団し、控え捕手としてチームを支えてきた岡田雅利がそう話していたことがある。
高卒6年目の森友哉が126試合で先発マスクをかぶってシーズンMVPに輝いた昨シーズン、「第二捕手」としてリーグ連覇に貢献したのが岡田だった。左親指の負傷で36試合の出場にとどまったものの、130万円アップの推定年俸3000万円で契約更改したことが、球団からの評価を物語っている。
「球団からは『森が成長したのも岡田のおかげ』と言ってもらえました」。岡田は森の6歳上で、ともに大阪桐蔭高校出身だ。練習でのキャッチボールはいつも二人で行い、森がタメ語で話しかけるなど、公私ともに近い距離にいる。
岡田が捕手・森の存在感を大きく感じ始めたのは、18年シーズンだった。
「以前は配球について『こういう球を要求したらこんな結果になったんですけど、どうでしたか?』と聞かれることが多くあったんですけど、最近は『今の打席ではこういう球で詰まらせました。次の打席、どうなりますか?』というところまで聞いてこられるようになって、『ちょっと待てよ』と(笑)。『これで抑えられました』から会話の内容が変わってきたので、『ああ、大きな壁になってきたな』と」
森は一つのポジションを争うライバルだが、同時に後輩であり、ともにチームの勝利を目指す仲間でもある。複雑な関係だが、それでも思ったことを正直に話すのは岡田の人間性だろう。それは投手陣に対しても同じで、特に若手には積極的に話に行く。
「うちの若手は、『インコースで行きたい』と言っていたからサインを出すと、首を振ってしまうことが多くあります。だからしっかりおさらいをして、次に生かしてもらうように話しています。下にゴマをするわけではないけど、そのピッチャーがコーチから『試合で組むキャッチャー、誰がいい?』と聞かれた時、『こうやって言っていたから岡田さんや』となってもらえたらいいし」
スローイングやブロッキングなど捕手としての基本技術は高く、2年前から積極性を意識して打撃も向上した。もし他チームに移籍すれば、正捕手を狙えるだけの実力を備えている。そんな岡田が第二捕手に控えるのは、チームにとって心強い。以前、秋元宏作バッテリーコーチがこう話していたことがある。
「選手ってどうしても、試合の勝ち負けに慣れてしまう部分があるんです。第二捕手を使っていくメリットは、そうした中で二人の捕手が高め合っていけることですね」
新型コロナウイルスの影響で開幕が3ヵ月遅れた今季は、シーズン最後まで過密日程が続く。体力面やリード面を考えると、正捕手に続く第二捕手をいかにうまく起用していくかが、ペナントレースの行方を左右するだろう。
例年以上に、岡田に求められる役割は大きくなりそうだ。
取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。
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