MLB

ロブ・マンフレッドは“MLB史上最悪のコミッショナー”なのか?

出野哲也

2020.07.06

開幕をめぐる労使対立を調停できなかったマンフレッド。その責任はあまりにも重い。(C)Getty Images

 リーダーたる者に必要な条件とは何だろう。いくつかの要素があるだろうが、最低限求められる条件は2つだ。1つはその組織や団体に対する愛情ないしは忠誠心で、これがなければメンバーは誰もついてこない。もう1つは公平性。特定の集団の利益だけを考えているようでは組織の長はつとまらない。

 そう考えれば、ロブ・マンフレッドがMLBのトップたるコミッショナー職にあるのは最悪と言わざるを得ない。

 2015年1月、マンフレッドが第10代コミッショナーに就任した当時の評判は「実直な実務家」だった。もともと弁護士で、1994~95年の長期ストライキの際にオーナー側のカウンセラーを務めた実績があり、98年からは15年にわたりMLB事務局で働いた。労使交渉のプロとして評判を高め、13年に最高執行責任者に昇進。56歳で現職に就いた際、一部のオーナーからは「選手会寄り」として反対され、マンフレッド自身「選手会との良好な関係が私の長所」と自負していたのは、今思えば信じ難い。
 
 ただ、当初からマンフレッドの言動には怪しい点もあった。ギャンブルの解禁に前向きだったり、レギュラーシーズン短縮案も打ち出したりしていて「どうやらこの人はあまり野球が好きではないらしい」との声は当時から出ていた。

 この5年間、マンフレッドが最も熱心に推進してきたのはいわゆる「時短」だ。野球は試合時間が長い上、アクションも少ない点が若年層に物足りないと思われている――という危機意識から、彼はとにかく試合時間を少しでも縮めることに注力してきた。その結果、申告敬遠制が始まり、ワンポイントリリーフも廃止されることになった。しかし、これらが実現したところで短縮できる時間は微々たるもの。3時間10分の試合時間が3時間になったとして「よし、野球を見てみよう」と考える若者が急増するわけがない。ほとんど意味のない施策に血眼になっていたのだ。

 その後もマンフレッドは「捕手が後逸すればいつでも振り逃げ出塁可能」という珍ルールを考えついて周囲を唖然とさせたかと思えば、現在は草の根レベルでの野球文化の破壊につながりかねないマイナー球団の大幅削減を進めている。ヒューストン・アストロズによる一連のサイン盗み問題では、ワールドシリーズの優勝トロフィーを「金属の塊」と形容し、選手たちの神経を逆撫でした。