今シーズンは、試合前の国歌斉唱時に起立せず、片ヒザをついている選手が目につく。これは、人種差別に対する抗議の意思を表す“ニーリング”という行為だ。
このポーズを最初に行ったのは、NFLの黒人選手、コリン・キャパニック(当時サンフランシスコ・49ers)で、2016年8月のこと。そして、MLBで初めてこのポーズをしたのが、先日マイナー契約でメッツに入団したブルース・マックスウェルだ。17年、当時アスレティックスに在籍していたマックスウェルは9月23日のレンジャーズ戦で人種差別を煽るドナルド・トランプ大統領に対する抗議の意思を示すために片ヒザをついた。彼の両親は父が黒人で、母が白人だ。
その翌月、マックスウェルは自宅に来た食品配達の女性に銃を突きつけたとして逮捕された。18年のオフにアスレティックスを退団し、昨シーズンはメキシカン・リーグでプレーした。シーズンが終わるまでに(あるいは打ち切りになるまでに)昇格して試合に出場すれば、2年ぶりのメジャー復帰となる。
実は、今春のスプリング・トレーニングが中断する前に、マックスウェルに対して古巣アスレティックスから契約のオファーがあったという。だが、マックスウェルはそれを拒否。ニーリングや退団を巡って、アスレティックスとの間に遺恨があったから……というわけではないらしい。
マックスウェルはNBCスポーツなどに「自分が本当に必要とされているとは思わない。デーブに言ったんだ。『あなたが僕の代理人だから仕事をもらえるというのは嫌だ』って」と語っている。マックスウェルの代理人を務めるデーブ・スチュワートは、1987~90年に4年続けて20勝以上を挙げた元アスレティックスのエース。つまり、アスレティックスはかつての名投手に敬意を表して契約を申し出ているに過ぎず、そんな契約は欲しくない、というのがマックスウェルの主張だった。
実際のところはどうなのか分からず、スチュワートとアスレティックスのビリー・ビーンGMは揃ってこの主張を否定している。けれども、マックスウェルの言い分は、一本気と呼ぶべきか清廉と表現すべきか、いかにもメジャーで最初に片ヒザをついた選手らしい気がする。
3年前にマックスウェルが”ニーリング”を行った時、同調するメジャーリーガーは現れず、彼はたった一人で戦うしかなかった。だが、アメリカで全国的に反人種差別運動が展開されている今、多くのメジャーリーガーが彼の勇気ある行動を思い起こしている。タイガースの黒人外野手キャメロン・メイビンは、「あの時、我々も彼と同じようにするべきだった。我々がこうするには、あまりにも遅すぎた」とESPNの取材に語っている。
再びMLB球団に戻ってきたマックスウェルが、また抗議活動に加わるかは分からない。だが、一つ言えることがあるとすれば、彼はもう一人で戦う必要はないということだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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このポーズを最初に行ったのは、NFLの黒人選手、コリン・キャパニック(当時サンフランシスコ・49ers)で、2016年8月のこと。そして、MLBで初めてこのポーズをしたのが、先日マイナー契約でメッツに入団したブルース・マックスウェルだ。17年、当時アスレティックスに在籍していたマックスウェルは9月23日のレンジャーズ戦で人種差別を煽るドナルド・トランプ大統領に対する抗議の意思を示すために片ヒザをついた。彼の両親は父が黒人で、母が白人だ。
その翌月、マックスウェルは自宅に来た食品配達の女性に銃を突きつけたとして逮捕された。18年のオフにアスレティックスを退団し、昨シーズンはメキシカン・リーグでプレーした。シーズンが終わるまでに(あるいは打ち切りになるまでに)昇格して試合に出場すれば、2年ぶりのメジャー復帰となる。
実は、今春のスプリング・トレーニングが中断する前に、マックスウェルに対して古巣アスレティックスから契約のオファーがあったという。だが、マックスウェルはそれを拒否。ニーリングや退団を巡って、アスレティックスとの間に遺恨があったから……というわけではないらしい。
マックスウェルはNBCスポーツなどに「自分が本当に必要とされているとは思わない。デーブに言ったんだ。『あなたが僕の代理人だから仕事をもらえるというのは嫌だ』って」と語っている。マックスウェルの代理人を務めるデーブ・スチュワートは、1987~90年に4年続けて20勝以上を挙げた元アスレティックスのエース。つまり、アスレティックスはかつての名投手に敬意を表して契約を申し出ているに過ぎず、そんな契約は欲しくない、というのがマックスウェルの主張だった。
実際のところはどうなのか分からず、スチュワートとアスレティックスのビリー・ビーンGMは揃ってこの主張を否定している。けれども、マックスウェルの言い分は、一本気と呼ぶべきか清廉と表現すべきか、いかにもメジャーで最初に片ヒザをついた選手らしい気がする。
3年前にマックスウェルが”ニーリング”を行った時、同調するメジャーリーガーは現れず、彼はたった一人で戦うしかなかった。だが、アメリカで全国的に反人種差別運動が展開されている今、多くのメジャーリーガーが彼の勇気ある行動を思い起こしている。タイガースの黒人外野手キャメロン・メイビンは、「あの時、我々も彼と同じようにするべきだった。我々がこうするには、あまりにも遅すぎた」とESPNの取材に語っている。
再びMLB球団に戻ってきたマックスウェルが、また抗議活動に加わるかは分からない。だが、一つ言えることがあるとすれば、彼はもう一人で戦う必要はないということだ。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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