MLB

A-RODがメッツの買収から撤退を表明。失敗の原因はうかつさにあった⁉

宇根夏樹

2020.09.01

A-ROD(右)とJ-LO(左)のビッグカップルを中心とする投資家グループがメッツ買収を断念。その原因は“お騒がせ男”A-RODにあるのかも…。(C)Getty Images

 MLB通算696本塁打の元スター、アレックス・ロドリゲスと、彼の婚約者の女優ジェニファー・ロペスは、メッツのオーナーになることができなかった。

 2人が率いる投資家グループは、8月28日に買収交渉から撤退することを表明。NHLやNBAのチームも所有するジョシュ・ハリスとデビッド・ブリッツァーらのグループもそれ以前に姿を消したため、すでにメッツの所有権のうち8%を有するスティーブ・コーエンが、唯一の候補として残った。メッツとコーエンの交渉は2月に一度破綻し、そこから別の候補が浮上したが、元の鞘に収まった格好だ。ここからのどんでん返しは、まず起きないだろう。

『ニューヨーク・ポスト』紙は8月半ばに、メッツのフレッド・ウィルポンCEOとジェフ・ウィルポンCOOはコーエンを嫌っていて、A-RODに売りたがっている、と報じていた。にもかかわらず、それが実現しなかったのは、MLB機構の思惑が絡んでいた可能性がある。

 一つは、資金面だ。A-RODとロペスは確かに大金持ちだが、コーエンほどの大富豪ではない。買収に必要な額を集めることはできても、そこで資金が尽きてしまい、チームを強くすることができないのではないか、との懸念が残る。実際に『ジ・アスレティック』は、2017年にマーリンズを買収したデレク・ジーターのグループが、主力を放出して経費削減を図ったことを前例として挙げている。この"ファイヤーセール"にはファンから批判が殺到。MLB機構としては、同じことが繰り返されて球界が盛り下がるのは避けたかったのではないか。
 
 また、ジーターと違い、現役時代のA-RODは必ずしもクリーンな選手ではなかった。禁止薬物PEDの使用歴を持ち、出場停止処分を受けて14年シーズンを全休している。それだけでなく、ダーティなプレーで何度か批判を浴びてもいる。例えば走者だった時に、内野フライを捕ろうとしている野手に向かって「オレが捕る」と後ろから声をかけて落球を誘おうとしたり、打席から一塁へ向かう途中、タッチに来た投手のグラブをはたき落とそうとしたりした。さらには試合中に観客の女性をナンパするという呆れたこともやらかしている。スター選手の割に、自分がどう見られているかについては無頓着で、うかつなところがあった。

 今回の買収失敗も、そのうかつさが原因だったのかもしれない。今回の買収交渉に際して、A-RODは前アストロズGMのジェフ・ルーノーをコンサルタントに起用し、助言を仰いでいた。ルーノーはよく知られているように、17~18年にアストロズが行ったサイン盗み問題でMLB機構から1年間の職務停止を科されている(処分直後のGM解任は、アストロズのオーナーによるものだ)。

 確かに現在のA-RODはMLBの「外部」にいるので、ルーノーを雇うことは別に違反ではないが、MLB機構としては面白くないはずだ。A-RODがメッツを買収して、球界に戻ってくるのを阻もうとしても不思議はない。A-RODにMLB機構の心証を悪くする意図はなかったのかもしれないが、少し考えればわかりそうなものだ。しかし、これも彼らしさかと思うとどこか憎めない。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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