シーズン終了まで20試合を切ったメジャーリーグ。各地で優勝を目指して熱戦が繰り広げられているが、中でも最激戦区となっているのがア・リーグ中地区だ。6日の試合を終えて首位のシカゴ・ホワイトソックス、2位のクリーブランド・インディアンス、3位のミネソタ・ツインズまではゲーム差1.5。ツインズの勝率.595はリーグ全体でも5番目の高さという混戦ぶりだ。
しかしツインズは、オフに“あの男”を獲得していなかったら、首位争いを演じることはできなかったかもしれない。4勝1敗、防御率2.77、メジャー1位のWHIP(1イニングあたりに許した走者の数)0.72を誇る前田健太である。
今季2戦目から7試合連続QS(6イニング以上を投げて自責点3以下)と抜群の安定感を見せる右腕は、8月18日のミルウォーキー・ブルワーズ戦で9回先頭までノーヒットノーランの快投を演じており、トレード加入1年目からエースと呼んでいい大活躍。ここ2試合は白星こそついていないものの、登板試合でチームは6勝2敗と大きく勝ち越しており、その存在感は光るものがある。
果たして前田は、今年2月にロサンゼルス・ドジャースから電撃トレードでツインズにやって来た。球界最高クラスの投手陣を誇るドジャースでは、その立ち位置は先発4~5番手。ポストシーズンでは1年目こそ先発機会を得たものの、過去3年間はリリーフに回されるなど、高い信頼を得ることはできなかった。しかしツインズは以前より前田の能力を評価しており、何度も視察を行った上で獲得に踏み切った。熱心だったのは他でもないGMのデレク・ファルビーであり、トレード直後に前田についてこうコメントしている。
「皆が気付いていないのが、ケンタはとんでもないアスリートという点だ。先発中心ながらもプレーオフではチーム事情でリリーフに回ったが、ドジャースは連投できる貴重な投手を手にすることができた。出し惜しみせずに2イニングを投げたと思えば、一日おいてまた登板できる。まさに(ケンタの)汎用性と運動能力の高さを証明していることだよ」
この談話だけでもツインズ側の評価の高さは伺えるが、もちろん前田の獲得はタダでできるわけもない。基本給300万ドルという安さで残り4年も保有できる先発投手の価値は計り知れず、100マイル右腕の有望株ブラスター・グラデロルと若手外野手、2020年のドラフト67位指名権をテーブルに出し、ドジャースから前田と若手捕手+1000万ドルの交換トレードを成立させた。
この数日前には一度ご破算となったが、2018年MVPのムーキー・ベッツを中心としたボストン・レッドソックスが絡んだ三角トレードも成立寸前まで行った。それでもツインズは前田を諦めずに調査を続けていたようで、それだけ本気だったことがうかがえる。もっとも、“痛み”を伴うビジネスだ。GMたちには「前田が活躍する」という確信が欲しかったのは言うまでもない。しかし幸い、ツインズにはそれを裏付けてくれる“打ってつけ”の選手がいた。
大晦日の2019年12月31日、ツインズはドジャースからFAとなっていた40歳のベテラン左腕、リッチ・ヒルと300万ドルで契約を結んだ。16年途中から19年まで前田と同じ釜の飯を食う仲だったヒルに、ツインズのフロントは何度も連絡を取ったという。もちろん話題は前田について。どんな投手なのか、性格は、チームメイトとしての振る舞い……。
そしてヒルは、新しい“上司”に対してこう進言したのだった。
「持ち球をすべて操る信じられない能力を持っている。特にスプリットチェンジのようなチェンジアップが素晴らしい。スライダーは球界屈指の一つだよ。速球も良い。この3球種を駆使すれば、ケンタ相手に成功することは本当に、本当に難しいよ。極めて才能のある投手で、マウンド上での闘争心も持っている」
まさにファルビーGMが求める投手像。前田の能力に確信を得たことで、トレードへの決断に疑いの余地はなくなった。あれから半年以上の月日が流れているが、ここまでの前田の活躍はまさに“予想通り”。チェンジアップの被打率.082は先発メジャー1位、4シームの.097は同4位。ヒルの見立ても完全に正しかったと言えるだろう。
昨オフ、ファルビーGMは「先発投手力をもう一段階、上のレベルに引き上げる必要がある」と語っていた。そしてここまでの先発防御率はメジャー4位。昨年の11位から大きくレベルアップすることに成功している。確かな“根拠”を持って獲得した前田健太という男は、ツインズが求め続けてきた最重要人物だったのかもしれない。
構成●SLUGGER編集部
【PHOTO】今オフにツインズへトレード移籍!メジャーで活躍を続ける”マエケン”の厳選ショット!
しかしツインズは、オフに“あの男”を獲得していなかったら、首位争いを演じることはできなかったかもしれない。4勝1敗、防御率2.77、メジャー1位のWHIP(1イニングあたりに許した走者の数)0.72を誇る前田健太である。
今季2戦目から7試合連続QS(6イニング以上を投げて自責点3以下)と抜群の安定感を見せる右腕は、8月18日のミルウォーキー・ブルワーズ戦で9回先頭までノーヒットノーランの快投を演じており、トレード加入1年目からエースと呼んでいい大活躍。ここ2試合は白星こそついていないものの、登板試合でチームは6勝2敗と大きく勝ち越しており、その存在感は光るものがある。
果たして前田は、今年2月にロサンゼルス・ドジャースから電撃トレードでツインズにやって来た。球界最高クラスの投手陣を誇るドジャースでは、その立ち位置は先発4~5番手。ポストシーズンでは1年目こそ先発機会を得たものの、過去3年間はリリーフに回されるなど、高い信頼を得ることはできなかった。しかしツインズは以前より前田の能力を評価しており、何度も視察を行った上で獲得に踏み切った。熱心だったのは他でもないGMのデレク・ファルビーであり、トレード直後に前田についてこうコメントしている。
「皆が気付いていないのが、ケンタはとんでもないアスリートという点だ。先発中心ながらもプレーオフではチーム事情でリリーフに回ったが、ドジャースは連投できる貴重な投手を手にすることができた。出し惜しみせずに2イニングを投げたと思えば、一日おいてまた登板できる。まさに(ケンタの)汎用性と運動能力の高さを証明していることだよ」
この談話だけでもツインズ側の評価の高さは伺えるが、もちろん前田の獲得はタダでできるわけもない。基本給300万ドルという安さで残り4年も保有できる先発投手の価値は計り知れず、100マイル右腕の有望株ブラスター・グラデロルと若手外野手、2020年のドラフト67位指名権をテーブルに出し、ドジャースから前田と若手捕手+1000万ドルの交換トレードを成立させた。
この数日前には一度ご破算となったが、2018年MVPのムーキー・ベッツを中心としたボストン・レッドソックスが絡んだ三角トレードも成立寸前まで行った。それでもツインズは前田を諦めずに調査を続けていたようで、それだけ本気だったことがうかがえる。もっとも、“痛み”を伴うビジネスだ。GMたちには「前田が活躍する」という確信が欲しかったのは言うまでもない。しかし幸い、ツインズにはそれを裏付けてくれる“打ってつけ”の選手がいた。
大晦日の2019年12月31日、ツインズはドジャースからFAとなっていた40歳のベテラン左腕、リッチ・ヒルと300万ドルで契約を結んだ。16年途中から19年まで前田と同じ釜の飯を食う仲だったヒルに、ツインズのフロントは何度も連絡を取ったという。もちろん話題は前田について。どんな投手なのか、性格は、チームメイトとしての振る舞い……。
そしてヒルは、新しい“上司”に対してこう進言したのだった。
「持ち球をすべて操る信じられない能力を持っている。特にスプリットチェンジのようなチェンジアップが素晴らしい。スライダーは球界屈指の一つだよ。速球も良い。この3球種を駆使すれば、ケンタ相手に成功することは本当に、本当に難しいよ。極めて才能のある投手で、マウンド上での闘争心も持っている」
まさにファルビーGMが求める投手像。前田の能力に確信を得たことで、トレードへの決断に疑いの余地はなくなった。あれから半年以上の月日が流れているが、ここまでの前田の活躍はまさに“予想通り”。チェンジアップの被打率.082は先発メジャー1位、4シームの.097は同4位。ヒルの見立ても完全に正しかったと言えるだろう。
昨オフ、ファルビーGMは「先発投手力をもう一段階、上のレベルに引き上げる必要がある」と語っていた。そしてここまでの先発防御率はメジャー4位。昨年の11位から大きくレベルアップすることに成功している。確かな“根拠”を持って獲得した前田健太という男は、ツインズが求め続けてきた最重要人物だったのかもしれない。
構成●SLUGGER編集部
【PHOTO】今オフにツインズへトレード移籍!メジャーで活躍を続ける”マエケン”の厳選ショット!