9月13日に、カブスのアレック・ミルズがノーヒッターを達成した。27個のアウトのうち、三振はわずかに5個。バックを守る野手陣の好守もあっての快挙だった。そして、その裏にはさらに、ゴールドグラブ4度の外野手、ジェイソン・ヘイワードの目に見えない“アシスト”が存在した。
5回表の攻撃を終えた時点で、カブスは9対0とリードしていた。デビッド・ロス監督は6回裏に、レフトのカイル・シュワーバーをベンチへ下げ、イアン・ハップをセンターからレフトへ動かし、センターにビリー・ハミルトンを起用した。おそらく、この時だろう。ロス監督はライトを守るジェイソン・ヘイワードも交代させようとした。
数日前の試合で、ヘイワードは体調不良を訴え、途中で退いている。ロス監督はシーズン終盤の過密スケジュールも考慮して、休ませようとしたのだろう。けれども、ヘイワードはそれを断り、「ミルズがヒットを打たれるまでは出続ける」と言ったという。彼がゴールドグラブを最後に受賞したのはもう3年前のこととはいえ、守備力はまだ水準を上回る。大記録を守備で少しでもアシストしたいという思いが強かったに違いない。ミルズは試合後の会見で、ヘイワードの出場続行について「とてもうれしかった」と語った。
ミルズは、ヘイワードと初めて会った時のことを今も覚えているという。17年シーズン前にロイヤルズからカブスへトレードされたミルズが、カブスで最初のスプリングトレーニングに参加した時のことだ。その時、最初に近づいてきたのがヘイワードで、丁寧に自己紹介をし、歓迎の言葉までかけてくれたという。当時のヘイワードはすでにスーパースターだった一方、ミルズはそれまでに3登板しかメジャー経験のない無名選手に過ぎなかった。
ヘイワードの人柄を表すエピソードは、この2つだけではない。16年シーズン、当時カブスの控え捕手だったロス監督は、この年限りでの現役引退を表明していた。そこでヘイワードは、ロスがラストシーズンを家族とともに快適に過ごせるようにと、遠征先のホテルで彼が泊まる部屋をすべてスイートルームにグレードアップし、その費用を自ら負担した。
またこの年は、カブスが108年ぶりの世界一に輝いた年でもある。インディアンスとのワールドシリーズ、3勝3敗で迎えた第7戦で、カブスは7回まで6対3と勝っていながら、8回裏に絶対的クローザーのアロルディス・チャップマン(現ヤンキース)が打たれ、同点に追いつかれた。
この時、意気消沈するチームを鼓舞したのがヘイワードだった。9回終了後に雨で17分間の中断があり、その間ヘイワードは自発的に選手たちを集めて、「力を合わせてこのゲームに勝とう!」と演説した。アンソニー・リゾーがのちに「ここ100年のカブスに起こった最も重要な出来事」と振り返ったとおり、これで気合を入れ直したカブスは、10回表に2点を入れ、最後は1点差で逃げきって優勝を果たした。
レギュラーはほとんどが20代。ヘイワードはまだ31歳だが、昨オフに移籍してきたジェイソン・キプニスを除けば、リゾーと並んで野手陣では最年長だ。そんな心優しき頼れる兄貴分は、今季OPSがキャリアハイを更新する勢いで打ちまくり、チームもポストシーズン進出が有力。4年ぶりの世界一を目指すにあたっては、やはりヘイワードの存在が鍵になるだろう。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
【PHOTO】スター選手が勢ぞろい! 2020MLBプレーヤーランキングTOP30
5回表の攻撃を終えた時点で、カブスは9対0とリードしていた。デビッド・ロス監督は6回裏に、レフトのカイル・シュワーバーをベンチへ下げ、イアン・ハップをセンターからレフトへ動かし、センターにビリー・ハミルトンを起用した。おそらく、この時だろう。ロス監督はライトを守るジェイソン・ヘイワードも交代させようとした。
数日前の試合で、ヘイワードは体調不良を訴え、途中で退いている。ロス監督はシーズン終盤の過密スケジュールも考慮して、休ませようとしたのだろう。けれども、ヘイワードはそれを断り、「ミルズがヒットを打たれるまでは出続ける」と言ったという。彼がゴールドグラブを最後に受賞したのはもう3年前のこととはいえ、守備力はまだ水準を上回る。大記録を守備で少しでもアシストしたいという思いが強かったに違いない。ミルズは試合後の会見で、ヘイワードの出場続行について「とてもうれしかった」と語った。
ミルズは、ヘイワードと初めて会った時のことを今も覚えているという。17年シーズン前にロイヤルズからカブスへトレードされたミルズが、カブスで最初のスプリングトレーニングに参加した時のことだ。その時、最初に近づいてきたのがヘイワードで、丁寧に自己紹介をし、歓迎の言葉までかけてくれたという。当時のヘイワードはすでにスーパースターだった一方、ミルズはそれまでに3登板しかメジャー経験のない無名選手に過ぎなかった。
ヘイワードの人柄を表すエピソードは、この2つだけではない。16年シーズン、当時カブスの控え捕手だったロス監督は、この年限りでの現役引退を表明していた。そこでヘイワードは、ロスがラストシーズンを家族とともに快適に過ごせるようにと、遠征先のホテルで彼が泊まる部屋をすべてスイートルームにグレードアップし、その費用を自ら負担した。
またこの年は、カブスが108年ぶりの世界一に輝いた年でもある。インディアンスとのワールドシリーズ、3勝3敗で迎えた第7戦で、カブスは7回まで6対3と勝っていながら、8回裏に絶対的クローザーのアロルディス・チャップマン(現ヤンキース)が打たれ、同点に追いつかれた。
この時、意気消沈するチームを鼓舞したのがヘイワードだった。9回終了後に雨で17分間の中断があり、その間ヘイワードは自発的に選手たちを集めて、「力を合わせてこのゲームに勝とう!」と演説した。アンソニー・リゾーがのちに「ここ100年のカブスに起こった最も重要な出来事」と振り返ったとおり、これで気合を入れ直したカブスは、10回表に2点を入れ、最後は1点差で逃げきって優勝を果たした。
レギュラーはほとんどが20代。ヘイワードはまだ31歳だが、昨オフに移籍してきたジェイソン・キプニスを除けば、リゾーと並んで野手陣では最年長だ。そんな心優しき頼れる兄貴分は、今季OPSがキャリアハイを更新する勢いで打ちまくり、チームもポストシーズン進出が有力。4年ぶりの世界一を目指すにあたっては、やはりヘイワードの存在が鍵になるだろう。
文●宇根夏樹
【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。
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