プロ野球

菊池、浅村が退団した中でのリーグ2連覇。カギは辻監督の「選手を輝かせる起用法」にあった

氏原英明

2019.09.26

戦力が大流出しても逆転V2を果たした西武。選手を信じ、輝かせる辻監督の起用法は改めて素晴らしかった。 提供:朝日新聞社

 西武が21年ぶりのリーグ連覇を果たした。
 
 前年オフに菊池雄星(マリナーズ)、浅村栄斗(楽天)、炭谷銀仁朗(巨人)らチームの主軸が続々と他球団に移籍した中でのV2達成は驚くしかない。


 やはり、辻発彦監督の手腕には相当な評価をしなければいけない。

 彼の指導力を一言でいうならば、我慢強さだ。「逃げ道を作らないマネジメント」とも言えるかもしれない。

 とにかく就任1年目から際立っていたのは、若い選手たちを起用し続けることに躊躇がない点だ。ここで重要なのは「起用すること」ではなく、「起用し続ける」ということだ。

 1年目は源田壮亮と外崎修汰、シーズン途中からは山川穂高をレギュラーに抜擢。2年目は山川を4番で起用し続け、3年目の今年は、髙橋光成や今井達也ら若手投手を怪我以外の理由で先発ローテーションから外さなかった。打者では打率.220程度の木村文紀を規定打席目前まで起用し続けた。

 1年目のシーズン最終戦後に辻監督が語った言葉が、今も鮮明に残っている。

「(選手の起用に関して)経験するだけでいいよっていうわけじゃない。勝つことが(優先順位の)一番上にないといといけないと思うんです。選手たちは勝つためにどうしなきゃいけないかを思ってプレーしてくれなきゃ困る」。
 辻監督は、選手自身が考えてプレーすることを求める。

「自分たちで動けるチーム」。それが監督の指導の根幹にあるからだ。盗塁がほとんどグリーンライトなのもそのためで、塁を盗む技術はもちろん、場面や状況を理解することまで自分で判断できる選手こそがチームに不可欠だと感じているからだ。


 ただ、そのためには我慢強く起用し続けることも求められる。失敗の経験もすることで、選手たちの能力は引き出されるからだ。

 上の言葉にあるように、経験の中には危機感が常に内包されていないといけない。「勝つため」の戦力として試合に出る中で、成功や失敗がある。その経験を選手自身がどう考えるかを求めているのだ。

 だから……辻監督はこうも思っている。

「楽させちゃいけないんですよ」。

 例えば、選手が試合でミスをする、チャンスで凡退する。チームの勝利を犠牲にしてしまうこともあるが、だからと言って、選手を懲罰するかのような形で交代させてしまうと、選手自身に危機感が生まれないのだという。

「選手がミスをすると代えたくなるけど、若い選手に限ってはそこで代えてはいけない。大事な場面で打てなかったり、エラーしたりすると選手は落ち込むし、交代させたくなりますよ。でも、そういうのを乗り越えないと『本当のレギュラー』になれないんですよ。守りでミスをした、じゃ、今度は打つと。そこで代えちゃったら、その選手は楽してしまう。さらなる上を目指すのであれば、自分の力で壁を破るということをしないといけない。そう考えているので、我慢して起用できるのかもしれない」

 辻監督がそう考えていられるのは、おそらく、中日時代に二軍監督などを務めてきたからだろう。選手が成功・失敗を経験する過程で、指導者が手を差し伸べるべき時とそうでない時を見誤ると、本来の力が引き出されないことを知っているのだ。

「コーチとかと話している中で、打っていない選手を代えちゃおうかという話にもなるんですけどね、あと1打席、次の打席で何かをつかむかもしれないからと考えてしまう自分もいる」
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不振でも髙橋光、木村らを起用し続けた