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MLB

「エースと心中するよりデータに賭ける」自分たちのスタイルを貫徹して敗れたレイズ

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2020.10.28

6回途中、わずか73球でエースを交代させたキャッシュ監督の決断が勝負の分かれ目になった。写真:Getty Images

6回途中、わずか73球でエースを交代させたキャッシュ監督の決断が勝負の分かれ目になった。写真:Getty Images

 その瞬間、ムーキー・ベッツはベンチのデーブ・ロバーツ監督の顔を見て微笑んだという。

 2020年ワールドシリーズ最大の山場は、第6戦の6回に訪れた。2勝3敗とリードされたレイズは初回にランディ・アロザレナが今ポストシーズン10本目の本塁打を放って先制。先発のブレイク・スネルはキャリア最高と言える圧倒的な投球でドジャース打線をねじ伏せ、5回までわずか1安打、9奪三振。6回も先頭打者を打ち取ったが、9番のオースティン・バーンズにセンター前ヒットを許した。

 1死一塁でベッツを迎えた場面で、レイズのケビン・キャッシュ監督は2年前にサイ・ヤング賞を受賞したエースを交代させるという驚きの策に出た。ベッツが笑顔を見せたのはこの瞬間だった。

 それまでたったの73球、余力も十分に残っているはずなのになぜエースを交代させたのか。決断の背景にあったのは、ここ数年MLBで急速に広まっている「イニングや球数に関係なく、相手打者が3巡目に入ったら先発投手を早めに交代させるべき」という戦略思考だ。
 
 ESPNによると、過去5年間の1~2巡目の平均OPS(出塁率+長打率)は.739なのに対し、3巡目は.799に跳ね上がる。確かに、打者は打席を重ねることで球筋やフォームにも慣れてくる一方、投手は球数が増えて体力も落ちていく。打席が増えれば増えるほど打者有利になるのは間違いない。レイズの場合、強力ブルペンを備えていることもあり、キャッシュ監督はレギュラーシーズンから早めの継投で勝ちを拾ってきた。この交代も、キャッシュ監督にとっては「普段着野球」だったのだろう。

 しかし、「3巡目理論」は一般論として正しいとしても、今日のスネルに関しては当てはまらなかったのではないか。上のデータは、有象無象の二流投手も含めての数字だが、今日のスネルの投球は大げさでなく世界最高クラスだった。96~97マイルの4シームに加え、これまでは荒れがちだったカーブ、スライダー、チェンジアップと変化球もうまくコントロールされ、ドジャースの打者たちは完全にタイミングが合っていなかった。
 

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