「収穫」のあるデビュー戦となったのではないだろうか。
ヤクルトは10日、シーズン最終戦を迎え、昨年に3球団競合の末に獲得した奥川恭伸を一軍デビューさせた。しかし、結果はほろ苦い炎上劇となった。
初回、広島先頭の鈴木誠也に二塁打を浴びると、4番・松山竜平に2点タイムリー二塁打。3回に再び松山に2ランを浴び、その後に連打を許したところで降板。2回0/3を9安打5失点、2奪三振でプロ初黒星がついた。
昨夏の甲子園を沸かせた金の卵は、肌寒い神宮球場も影響したのか球の走りを感じなかった。そして、この力のないストレートを序盤に集めたことが失点につながった。本人も「状態としてはあまり良くなかったです。初めてのマウンドにも対応できなかったし、修正ができないまま、ズルズルといってしまった」と認めている。
それでも、まずは一軍登板を経験できただけでも十分だろう。奥川は1月に右ヒジの炎症が発覚し、年間を通じても2度のノースロー調整。今年はまず自らの身体と向き合わなければならなかった。もし無理をしていたら、もっと大きな故障につながっていたかもしれない。
その中で焦らず二軍で鍛錬し、一軍登板を控えた11月1日にはイースタン・リーグ最終戦で5回(56球)無安打無失点、1四球3奪三振の好投で初勝利を手にした。高卒1年目の選手が二軍で7試合、19.2回を投げて防御率1.83、18奪三振、K/BB9.00、WHIP0.66というのは出色の数字だ。“客寄せ”という理由で、奥川は一軍に上がったわけではないのである。
確かにデビュー戦では洗礼を浴びる結果になったが、奥川が目標とし、多くのスカウトから比較されてきた“神の子”、田中将大も初陣では炎上している。
2007年、高卒ルーキーながら開幕一軍ローテーションに入った田中は3月29日のソフトバンク戦でデビュー。しかし打者12人に対して6安打1四球6失点、1回2/3でマウンドを降りた。もっとも、田中が“神の子”たる所以は、この後にチームが追いついて6失点しても黒星がつかなかったことだろうか。
そして田中は、この悔しさを糧にプロ4試合目となったソフトバンク戦を9回2失点13奪三振の快投でプロ初完投をマーク。この年挙げた11勝のうち5つがソフトバンク戦と、デビュー戦の炎上などなかったような活躍を見せて新人王に輝いた。
田中と異なり、奥川が今シーズンにリベンジする機会はもうない。けれども、高津臣吾監督が「内容や結果は問わない。投げる姿を堂々と、マウンドでしっかりと投げてくれたらそれでいい。これが来年以降に必ず生きる最初の登板になると信じている」と言うように、「2021年への糧」にはなったはずだ。
一軍打者のレベル、多くのお客さんがいる前での登板、球場で異なるマウンド、気候などの環境面。これらはすべて二軍ではなかなか得られない経験である。思い出してほしい、奥川は高校時代から非常に「賢い」投手だった。
目的を持った練習を行い、時には自ら考え、そして身体を休める柔軟な思考も持っていた。そうした考察力の高さは打者との駆け引きでも生かされ、スピードや切れ味鋭いボールにとどまらない完成度の高い投球を見せてくれた。だからこそ、奥川の“アイドル”である田中をして、「僕が18歳の時にはあんなピッチングはできなかった。僕なんかよりはるかにいいピッチャー」と称賛したわけである。
2020年の最後に手にした「収穫」を、奥川が簡単に手放すとは思えない。この日できなかった修正、彼ならきっと来年には見事にしてくるはずである。
構成●SLUGGER編集部
【PHOTO】キュートな笑顔満載!東京ヤクルトスワローズ・ダンスチーム「Passion」を特集!
ヤクルトは10日、シーズン最終戦を迎え、昨年に3球団競合の末に獲得した奥川恭伸を一軍デビューさせた。しかし、結果はほろ苦い炎上劇となった。
初回、広島先頭の鈴木誠也に二塁打を浴びると、4番・松山竜平に2点タイムリー二塁打。3回に再び松山に2ランを浴び、その後に連打を許したところで降板。2回0/3を9安打5失点、2奪三振でプロ初黒星がついた。
昨夏の甲子園を沸かせた金の卵は、肌寒い神宮球場も影響したのか球の走りを感じなかった。そして、この力のないストレートを序盤に集めたことが失点につながった。本人も「状態としてはあまり良くなかったです。初めてのマウンドにも対応できなかったし、修正ができないまま、ズルズルといってしまった」と認めている。
それでも、まずは一軍登板を経験できただけでも十分だろう。奥川は1月に右ヒジの炎症が発覚し、年間を通じても2度のノースロー調整。今年はまず自らの身体と向き合わなければならなかった。もし無理をしていたら、もっと大きな故障につながっていたかもしれない。
その中で焦らず二軍で鍛錬し、一軍登板を控えた11月1日にはイースタン・リーグ最終戦で5回(56球)無安打無失点、1四球3奪三振の好投で初勝利を手にした。高卒1年目の選手が二軍で7試合、19.2回を投げて防御率1.83、18奪三振、K/BB9.00、WHIP0.66というのは出色の数字だ。“客寄せ”という理由で、奥川は一軍に上がったわけではないのである。
確かにデビュー戦では洗礼を浴びる結果になったが、奥川が目標とし、多くのスカウトから比較されてきた“神の子”、田中将大も初陣では炎上している。
2007年、高卒ルーキーながら開幕一軍ローテーションに入った田中は3月29日のソフトバンク戦でデビュー。しかし打者12人に対して6安打1四球6失点、1回2/3でマウンドを降りた。もっとも、田中が“神の子”たる所以は、この後にチームが追いついて6失点しても黒星がつかなかったことだろうか。
そして田中は、この悔しさを糧にプロ4試合目となったソフトバンク戦を9回2失点13奪三振の快投でプロ初完投をマーク。この年挙げた11勝のうち5つがソフトバンク戦と、デビュー戦の炎上などなかったような活躍を見せて新人王に輝いた。
田中と異なり、奥川が今シーズンにリベンジする機会はもうない。けれども、高津臣吾監督が「内容や結果は問わない。投げる姿を堂々と、マウンドでしっかりと投げてくれたらそれでいい。これが来年以降に必ず生きる最初の登板になると信じている」と言うように、「2021年への糧」にはなったはずだ。
一軍打者のレベル、多くのお客さんがいる前での登板、球場で異なるマウンド、気候などの環境面。これらはすべて二軍ではなかなか得られない経験である。思い出してほしい、奥川は高校時代から非常に「賢い」投手だった。
目的を持った練習を行い、時には自ら考え、そして身体を休める柔軟な思考も持っていた。そうした考察力の高さは打者との駆け引きでも生かされ、スピードや切れ味鋭いボールにとどまらない完成度の高い投球を見せてくれた。だからこそ、奥川の“アイドル”である田中をして、「僕が18歳の時にはあんなピッチングはできなかった。僕なんかよりはるかにいいピッチャー」と称賛したわけである。
2020年の最後に手にした「収穫」を、奥川が簡単に手放すとは思えない。この日できなかった修正、彼ならきっと来年には見事にしてくるはずである。
構成●SLUGGER編集部
【PHOTO】キュートな笑顔満載!東京ヤクルトスワローズ・ダンスチーム「Passion」を特集!