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【特別寄稿】米国記者が明かす「私がサイ・ヤング賞投票でダルビッシュ有に票を投じなかった理由」

JP・フーンストラ

2020.11.14

日本人投手では初の最多勝を獲得したダルビッシュだが、サイ・ヤング賞投票では2位に終わった。(写真)Getty Images

 11月11日、トレバー・バウアー(レッズ)が2020年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投手に選ばれ、ダルビッシュ有(カブス)は2位に終わった。興味深いことに、ある一人の投票者がダルビッシュにまったく票を投じなかった(注:サイ・ヤング賞の投票者は1~5位までを選出する)ことが判明した。

 何を隠そう、その投票者とは私のことだ。

 ダルビッシュに投票しなかったのにはいくつかの小さな理由がある。私の中では、ダルビッシュは6位だった。私が実際に票を投じたのは以下の5人だ。

1位:バウアー
2位:ジェイコブ・デグロム(メッツ)
3位:ディネルソン・ラメット(パドレス)
4位:アーロン・ノラ(フィリーズ)
5位:デビン・ウイリアムズ(ブルワーズ)

 私の中で、この5人をダルビッシュが上回るという説得力のある根拠は見つからなかった。もっとも、その差はほんのわずかなものだったが。
 
 今年のような短縮シーズンでは、一人の選手が他の選手と決定的な差をつけることは難しい。新型コロナウイルスの感染拡大により、レギュラシーズンが162試合から60試合になった時点で、これは避けられない運命にあった。

 サイ・ヤング賞候補となった選手間の成績差はほんの微々たるものだった。1位と2位、3位、4位、5位の投手を隔てる差はほとんどなかった。

 だが、そこに序列をつけて票を投じるのが私の役目だ。いつものように、私は精密な吟味とディテールへの配慮を持って臨んだ。まず目をつけたのが、『ベースボール・プロスペクタス』(注:セイバーメトリクス系のデータサイト)のDeserved Runs Average(DRA)という指標だった。

 計算方法な複雑だが、基本的な原理はシンプルだ。DRAはまず、投手がコントロールできない要素をすべて把握することを目指す。キャッチャーのフレーミング技術、その投手が登板している際の味方の守備力、球場、対戦した打者のクオリティ、球審を務める審判の傾向などだ。そして、それらを投手がコントロールできる要素と切り分け、乗率を加えながら最終的に防御率と同じ感覚で良し悪しを判断できるような数字として算出する。