プロ野球

日本シリーズ7回ノーヒッターの鷹・ムーアは沖縄育ち。“王者”の秘訣は「メジャーより上のコンディショニング管理」

THE DIGEST編集部

2020.11.25

元メジャー屈指の有望株が語る、ソフトバンク加入時のマル秘エピソードに強さの秘密が眠っている?写真:田口有史

 21日に開幕した日本シリーズは、早くも閉幕に近づいてしまった。2年連続の顔合わせとなったソフトバンクと巨人の頂上決戦は、4年連続の日本一を目指すソフトバンクが3連勝で王手をかけて第4戦を迎える。

 京セラドームからペイペイドームに舞台を移して心機一転、反撃したい巨人のムードを粉々に粉砕したのが、第3戦に先発した日本1年目の左腕、マット・ムーアだ。初回先頭にエラーで出塁を許したものの、その後3人を打ち取ってゼロに抑えると、あとは2つの四球を与えたのみで無安打のまま7回を無失点に抑えて降板した。守護神の森唯人が9回2死からヒットを許して継投ノーヒッターこそ逃したが、ムーアの投球は文字通りこの日のMVPにふさわしいものだった。

 もっとも、ムーアの生来の資質を考えれば、今回の快投は"普通"のことだったかもしれない。タンパベイ・レイズで22歳にしてデビューしたムーアは、平均155キロに迫る速球で鮮烈なインパクトを残すと、3年目の2013年には17勝を挙げ、オールスターにも出場を果たした。しかし、翌年にトミー・ジョン手術を受けてからは自慢のスピードに陰りが見え、各球団を転々としながら、再起を図るために31歳の今季、日本でプレーを決めたわけである。
 
 実は、ムーアが日本で暮らすのは今回が初めてのことではない。彼の父はアメリカ空軍のメカニックで、ムーアが6歳の時の1996年に嘉手納基地へ配属され、5年間、沖縄で生活していた。といっても、20数年ぶりの来日であり、当初は日本での環境に馴染めるか不安だったというが、デニス・サファテやリック・バンデンハークの先輩投手陣のおかげで杞憂に終わったそうだ。

 そんなムーアは、ソフトバンクに加入した最初の練習で衝撃を受けたと、米メディア『ジ・アスレティック』に語っている。「日本の選手たちはコンディショニング管理を非常に重視していて、それはメジャーよりもずっと上だと思います。選手は毎日45分もストレッチに時間をかけていました」。

 実績のある選手の場合、自らに自信があるあまり異国の文化に馴染めず、結果を残せないことも少なくない。しかし、ムーアは違った。自身も他の選手と同じようにストレッチを新たなルーティンに取り組んだのだ。ストレッチで筋肉が緩みやすくなっただけでなく、中6日ローテーションも「投げやすいものでした」。また、打者陣の練習にも「メジャーリーガーよりもずっと多くスウィングしていました」と驚いたようである。

 来日してすぐに、日本一3連覇中のソフトバンクのレベルの高さを目の当たりにしたことが、もしかしたらムーアにとっては大きかったのかもしれない。この環境であれば、自分の能力も高められるという感覚を得たのだろう。そして同時に、ハイレベルな選手たちとの競争のなかで、闘争心も掻き立てられたはずだ。

 ムーアが"見た"日本のレベルは、あくまでソフトバンクだけであり、他のチームにも同じことが言えるわけではない。しかし、メジャー通算54勝の元トップ・プロスペクトをして驚愕する練習と意識レベルの高さ。今季のソフトバンクの戦いぶりを見ていると、なるほど納得できるものである。

構成●THE DIGEST編集部
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