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プロ野球

ムーアを替えたソフトバンクと、サンチェスを替えられなかった巨人。両軍の明暗を分けた“投手交代”

氏原英明

2020.11.25

サンチェス(写真左)を引っ張った結果ピンチを招き、結局この回に追加点を許した巨人。ノーヒットのムーアをすっぱり代えたソフトバンクとは対照的だった。写真:田口有史

サンチェス(写真左)を引っ張った結果ピンチを招き、結局この回に追加点を許した巨人。ノーヒットのムーアをすっぱり代えたソフトバンクとは対照的だった。写真:田口有史

 7回を投げ切って93球。しかも無安打無得点。ソフトバンクの先発ムーアは、これ以上ないほどの快投を見せていた。

 ノーヒットノーランまではあと2イニング。おそらく、シーズン中だったら続投させていただろう。しかし、工藤公康監督はムーアの交代を決断した。

「疲れが見えてきたというのもありますけど、どうしても勝ちたかった。負けるわけにはいかなかったんです」

「日本シリーズ史上初のノーヒットノーラン」という記録にこだわるならば、ムーアがヒットを打たれるまでは、続投させるのが正解だった。しかし、4連覇を狙うソフトバンクが見ているのは記録ではない。勝利のために最善を尽くす。それが指揮官とナインの共通認識なのだ。

 そして、それはムーアだけに限った話ではない。2対0とリードの6回、2死満塁の好機を迎えると、7番・牧原大成に替えて、長谷川勇也を代打に送っている。牧原は過去2試合でいずれもヒットを放っており、状態は決して悪くない。1回表に悪送球で吉川尚輝に出塁を許す失態を犯していたから、打席で名誉を挽回する機会にもなり得た。それでも、指揮官の決断に迷いはなかった。

 長谷川は初球を叩いて、一、二塁間へ痛烈なゴロを放った。巨人のセカンド吉川のスーパープレーで得点はならなかったが、アウトになった直後に長谷川は悔しそうにうずくまった。この闘志こそ、指揮官が欲していたものだろう。
 
 さらに言えば、試合を分けたのは工藤監督の采配だけではない。あくまで勝つための最善の策にこだわったソフトバンクに対し、巨人の采配はいかにも消極的だった。6回に二死満塁のピンチを招いた先発のサンチェスは、それまでの85球という球数以上に、疲弊しているように見えた。にもかかわらず、巨人の原辰徳監督はサンチェスに7回も続投を命じたが、これが裏目に出た。

 先頭の松田宣浩にいきなりレフト前ヒットで出塁を許し、続く9番・甲斐拓也の送りバントで1死二塁のピンチを招く。ここに至って原監督はようやくサンチェスの交代を決断したが、時すでに遅し。勢いづいたソフトバンク打線はその後も巨人投手陣に猛打を浴びせ、この回2点を追加した。工藤監督はこの2点を、「相手の攻撃では走者が出始めていた時だったんで、もう1点が欲しいというところだった。あの回の2点は、うちからすれば『これでいけるぞ』という得点だった」と振り返っている。ソフトバンクはこの2得点で、さらに楽になった。一方、巨人はこの2失点で、さらに苦しくなった。

 サンチェスは確かに球数が少なく、質の高いピッチングを見せていた。「先発投手は100球をメドに交代させる」というセオリーからすれば、続投は“普通”の選択ではあった。しかし、日本シリーズにおいて大事なのは「作戦がセオリー通りかどうか」ではない。むしろ、「勝利のために何が最善か」を考えるべきだった。少なくとも7回の頭から大竹を投げさせ、周東のところで高梨にスウィッチするという選択をしていれば、なし崩し的に傷口が広がることは避けられたかもしれない。

 結局、巨人は「最善策」が何かを見つけられないまま敗れてしまった。これで3連敗。次につながる何かはいまだに見出せていないが、明日の第4戦をどう戦っていくつもりなのだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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