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カブスの本拠地リグリー・フィールドが国指定建造物に。106年の歴史を誇る“古き良き球場”の魅力とは?

宇根夏樹

2020.12.05

外野フェンスにツタが生い茂っているのはメジャー30球場でリグリーだけ。また、ファウルゾーンが狭く、客席とフィールドの距離が近いのも魅力だ。(C)Getty Images

 11月19日、カブスのホーム球場であるリグリー・フィールドが米国の国定歴史建造物に指定された。これは内務長官が歴史的に価値のある建造物などを指定する文化遺産保護制度で、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルやセントルイスのゲートウェイ・アーチをはじめ、現在約2600を数える。ボールパークでは、2012年3月のフェンウェイ・パーク(ボストン)に次いで2例目となる。

 リグリー・フィールドの開場は1914年。この時は「ウィーグマン・パーク」という名称で、「カブス・パーク」を経て、27年から現在の名称となった。カブスがホーム球場としたのは、開場3年目の16年からだ。2010年代の半ばに約10億ドルを費やした大規模改修を施しながらも、開場当初の姿をほとんど失うことなく現在に至っている。この改修では電光掲示板も設置されたが、37年に設置された手動のスコアボードは今もなお健在で、こういった点が国定歴史建造物に指定される決め手となったようだ。

 フェンウェイ・パークの最大の特徴がレフトに立つグリーンモンスターなら、リグリー・フィールドは外野フェンスのツタだろう。毎年、開幕直後の季節は茶色で少し寒々しいが、シーズンが進むにつれ、青々と茂ってくる。こちらも歴史は古く、手動のスコアボードができたのと同じ37年に植えられた(ちなみに、打球がツタに絡まった場合は二塁打となる特別ルールが存在する)。

 また、7回終了後のセブンス・イニング・ストレッチの際に、ネット裏の放送局ブースから歌われる、『Take Me Out to the Ball Game』もリグリーの名物だ。元々は球団専属アナウンサーのハリー・ケリー(球場正面には彼の銅像が建てられている)が歌っていたが、98年に彼が死去した後も、多彩なゲストを呼んで伝統は継続。大のカブスファンとして知られる映画俳優のビル・マーレイやロックバンド、パール・ジャムのエディ・ヴェダーが登場したこともある。
 
 リグリー・フィールドには、実は球場の外にも"観客席"がある。外野後方に道を挟んで立つ10以上のビルが屋上に客席を設けており、「ルーフトップ・シート」としてファンに親しまれている。93年にはレッズの投手トム・ブラウニングが試合中に球場を抜け出し、ユニフォーム姿のままファンとともに屋上から観戦した(その後、監督から罰金を科された)こともあった。

 デーゲームの多さもリグリー・フィールドの特徴だ。昨シーズンも81試合中、実に半分以上の48試合はデーゲームだった。そもそも、リグリー・フィールドで初のナイトゲームが行われたのも、開場75年目の88年とかなり遅い。32年から77年にかけてオーナーを務めたフィリップ・K・リグリーの「ベースボールは太陽の下でやるものだ」という言葉を忠実に守っていたからだ。

 また、カブスが勝った日には青い旗、負けた日には白い旗を掲げる伝統も、ほぼ変わらずに(現在は勝った日に「W」の書かれた旗、負けた日は「L」の旗が掲げられる)続けられている。このように、リグリー・フィールドには他の球場にはない独特の特徴がある。それが歴史的なランドマークとなった最大の理由だろう。

 長い歴史を持つだけあって、この球場で起きた事件には枚挙に暇がない。32年のワールドシリーズでベーブ・ルースが"予告本塁打"――本当にスタンドを指差していたかは定かではないが――を放ったのもここだったし、16年の世界一までカブスを苦しめ続けた"ヤギの呪い"は、この球場で行われた45年のワールドシリーズでかけられたものだ。03年のマーリンズとのナ・リーグ優勝決定シリーズでは、ファンがフライの捕球を"妨害"したことをきっかけに大逆転負けを喫する"スティーブ・バートマン事件"も起こり、呪いの存在が改めてクローズアップされた。

"呪い"が解かれた16年のワールドシリーズにおいては、胴上げの瞬間こそインディアンスの本拠地プログレッシブ・フィールドだったが、カブスが3連勝で逆転世界一を果たす契機となったクリス・ブライアントの同点2ランを叩き込んだのは、リグリーのレフトスタンドだった。開場してから106年。まさに多くの歴史的瞬間を見守り続けてきたのが、リグリー・フィールドという球場なのだ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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