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プロ野球

【柳田悠岐のアマチュア時代】広島商の無名選手が花開いた大学時代、驚異のポテンシャルを示したある数字とは〈SLUGGER〉

西尾典文

2021.02.07

高校や大学時代の柳田を見て、今の姿を想像できた関係者は決して多くはなかったはずだ。写真:大友良行

高校や大学時代の柳田を見て、今の姿を想像できた関係者は決して多くはなかったはずだ。写真:大友良行

 毎年新たなスターが出現するプロ野球の世界。しかし年俸が数億円を超えるような選手も、必ずしもプロ入り前から高い評価を受けてきたわけではない。そんなスター選手のアマチュア時代の姿を年間300試合現地で取材するスポーツライターの西尾典文氏に振り返ってもらった。今回は昨年のパ・リーグMVPにも輝いた柳田悠岐(ソフトバンク)だ。

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 高校時代には無名の選手が大学で大きく花開くケースは珍しくないが、柳田もその一人である。広島商では全く無名の選手で、2005年10月1日に行われた如水館との試合を現地で見ているが、背番号5をつけて代打で出場してセンター前ヒットを放った後に代走を送られており、プレーについては何も印象に残っていない。

 そんな柳田をドラフト候補としてちゃんと注目して見たのは、広島経済大の3年時に出場した大学選手権でのことだ。大学選手権のパンフレットにはリーグ戦での成績も掲載されているが、その春は打率.528という数字が残っている。高校時代はとにかく細かったが、この時点でのプロフィールは187㎝、85㎏と堂々とした体格へと成長を遂げていた。
 
 これだけの大型打者で圧倒的な成績を残していれば、そのプレーに注目するのは当然だろう。しかし初戦の創価大戦での結果は決して芳しいものではなかった。相手投手はこの年のドラフト2位で日本ハムから指名される大塚豊だったが、第1打席は縦の変化球の前にあえなく空振り三振。続く2打席も力のないファーストゴロとライトフライに終わり、チームもわずか4安打に抑えられて初戦敗退となった。

 当時のノートには「体の割れが不十分で、高いレベルの変化球には対応できていない」とある。翌年の大学選手権、三重中京大との試合ではヒットを1本放っているが、その時も印象が大きく変わることはなかった。ちなみに4年時の大学選手権に出場していた外野手では秋山翔吾(レッズ)、伊志嶺翔大(元ロッテ)に比べるとワンランク以上落ちるというのが率直なイメージだった。

 ただ一点、潜在能力の高さを示す数字が残っている。創価大戦で大塚に打ち取られた時の一塁到達タイムは3.98秒をマークしているのだ。一塁到達タイムは4.00秒を切ればかなり速いレベルで、柳田ほどの体格でこの数字を叩き出すことは非常に珍しい。全国大会では凄い打球を飛ばすことはなかったが、バットを振る力自体があったことは確かだ。

 最終的にソフトバンクはその潜在能力に賭けて2位という高い順位で指名し、柳田もその期待に応えてみせたわけだが、今の姿を想像できた関係者は決して多くはなかったはずだ。そういう意味では改めてプロ入り後の成長を見通すことの難しさを示した選手の一人と言えるだろう。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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