プロ野球

“8年ぶり“の黒星から見えた田中将大の現在地。2回までと3回以降で使い分けた「対極のスタイル」が意味するものとは

田口元義

2021.04.18

5回を投げた田中(左)は、中田(右)に一発を浴びるなど、4安打5奪三振、3失点で敗戦投手となった。写真:産経新聞社

 神話のように崇められてきた記録が、遂に途切れた。

 右足ヒラメ筋損傷により、3月27日の今季初登板を回避してから約3週間。レギュラーシーズンでは2748日ぶりに実現した復帰登板で、田中将大は5回を投げ、4安打5奪三振、3失点の成績で敗戦投手となった。自身の黒星は2012年8月19日の西武戦以来。同26日から築き上げてきた日本での連勝記録は、28でストップした。

 敗戦を招いたのは、2本の本塁打だった。

 初回、2死一塁から4番の中田翔に先制2ランを浴び、2回には石井一成にソロ本塁打を許した。手痛い一発は、いずれも高めに浮いたストレートだった。

「序盤、ホームランでの失点がもったいなかったです」

 球団を通じて田中が振り返ったことからも、それが失投であったことが伺える。

 高くなったボールは打たれた。しかし、「高さ」を活用したボールは生きていた。

 この試合で投じた75球のうち、真ん中より高めは32球。ストレートよりもスライダー、カーブ、カット、ツーシームと変化球が多く、コースも内角が目立った。痛打を浴びたように、全てが制球されたわけではなかったが、明らかに高さを意識して投げていた。

 それは、田中がニューヨーク・ヤンキースでの7年間で培った、いうなれば「メジャーリーグ仕込み」の投球術でもある。外国人打者は高めでもスイングしてくることが多く、ストライクゾーンを広く使って勝負する術を習得した。今年、春季キャンプに合流した田中のボールを受けた捕手陣を中心に、その概念が楽天に浸透しつつある。
 
 だからといってこの試合、高さ一辺倒で勝負していたわけではない。まるで、ストライクゾーンを確かめるように、相手の反応を探るように、田中は相手打線と対峙していた。

 失点を献上してしまった2回までは、どちらかというと高めのストレートで勝負するシーンが目立った。ところが、3回から5回までは低めの変化球中心の配球に切り替え、1安打無失点と相手を手玉に取った。

 対極のスタイルが意味するもの。
 それは、データの収集だ。

 田中いわく、ヤンキース時代の18年から投球スタイルに変化が生まれたのだという。詳細なデータに加え、打者が打席で狙っている球種やボールへの反応を照合させながら抑えることを、より意識するようになった。

 田中が1月の入団会見で念を押すように放っていた言葉を思い出す。

「僕のなかでは7年前(2013年)で日本球界は止まっているので、今のことは100%わからない。僕が離れている間に、たくさんいいバッターが出てきていると思う」

 田中がマウンドで投げ、日本の打者の傾向を把握するには、いささか時間が必要なのかもしれない。だからといって、負けていいわけではない。入団会見でも「欲しいタイトルは日本一」と強調していたように、田中は勝利に飢えた投手である。それは、これまでの連勝記録とキャリアが物語っている。

 8年ぶりの復帰登板。苦杯を嘗めさせられたが、間違いなく投球の幅広さ、武器の多さは印象付けた。

 価値ある黒星。

 これから田中は、そのことをマウンドで示してくれるはずである。

文●田口元義

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