プロ野球

“メジャー最先端”の導入でチーム改革へ。DeNAが取り組むデータ解析の舞台裏

萩原孝弘

2021.05.03

昨年バウアー(右)がDeNAの施設を訪れるなど、データへの意識はチーム全体に浸透している。写真:萩原孝弘

 サードの宮﨑敏郎がセカンドの守備位置にまで動き、三塁付近はガラ空き。横浜DeNAベイスターズのゲームで、大胆な守備シフトに驚かされることはないだろうか。それらはチーム統括本部チーム戦略部R&Dグループの取り組みによってなされている。

「世界中のスポーツチームの最先端を走り続ける」。2025年に向けたベイスターズのビジョンに沿ってチームを下支えするR&Dグループは、バイオメカニクス、アナリスト、データサイエンス、AI研究開発者、元トレーニングコーチらで編成される頭脳派集団。チームの編成、スカウティング、ハイパフォーマンス、育成、戦術・采配の流れのすべての面で関わりを持つ、重要な歯車として機能している。

 その活動の一部を、ベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」にて、「データ活用で支えるチーム戦略」をテーマにトークイベント・ワークショップ内で明かしてくれた。
 
 昨年MLBタンパベイ・レイズの年俸総額は30チーム中28位、ロサンゼルス・ドジャースの約3の1程度。それでもワールドシリーズに進出し、ドジャースを苦しませることができた裏には、データサイエンス、アナリティクスの活用に最も意欲的だったことがある。

 それらの成功例を受け、R&Dグループは「野球のデータ革命」の導入に至ったと経緯も説明。アストロズ成功の軌跡を描いた『アストロボール』の中の「人間の気づくことは数値化できる。数値化すればそこから学ぶことができる」の言葉通り、実際にトラックマンやブラストモーションを用いて、フィールド上で起きていることの「数値化と可視化」することに着手した。

 具体的に戦術面ではテクノロジーとデータサイエンスを用いて、例えば引っ張り傾向の強い中日の主砲ビシエドに対し、昨年はセカンドを二遊間に寄せる大胆な守備シフトでヒット性の当たりをアウトに取ることに成功している。

 育成面では上記の2つに合わせてバイオメカニクスも導入。昨年サイ・ヤング賞にも輝いた頭脳派トレバー・バウアー(ロサンゼルス・ドジャース)が導入し、球界のトレンドとなったデータと映像を使ってピッチングをテストし、調整や改善を図る「ピッチデザイン」を実践している。そのバウアーは2019年12月に横須賀にあるファーム施設「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」を訪れ、DeNAの投手陣にピッチデザインの何たるかを教示していた。

 ボールの回転数や軸、リリースポイントなどの投球の質を測定するラプソードや、超スロー画像で握りや起動の確認が可能なエッジャートロニックなどの最新機器を駆使し、投球の質、リリース、軌道を可視化し、理想的な投球を目指している。実際に昨年のキャンプでは大貫晋一が特に積極的に活用し、自身初の2ケタ勝利へとつなげた実績もある。

 各分野に横断的に関わり、育成や戦術にまで貢献するR&Dグループ。監督や選手の入れ替わりがあろうとも、普遍的なベースを構築し「長期的に安定した力を持つ、魅力的なチーム」形成を目標とする。FAなどで、マネーゲームを仕掛ける球団とは違うアプローチで常勝球団を目指すDeNAの視線は、常に最先端へと向いている。

取材・文・写真●萩原孝弘
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