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「マントルのバットはオレのものだ!」“史上最悪のNPB助っ人”ペピトーンがアメリカ野球殿堂を提訴!?<SLUGGER>

宇根夏樹

2021.07.21

マントル(中央)と抱き合うペピトーン(右。左はロジャー・マリス)。2人は62年から68年までの7年間をチームメイトとして過ごした。(C)Getty Images

 現在、通算500本塁打以上の選手は27人を数え、ミゲル・カブレラ(タイガース)もあと6本に迫っている。だが、スイッチヒッターに限ると、536本のミッキー・マントルと504本のエディ・マレーの2人しかいない。

 マントルが1967年5月14日に500本目を放った際に使ったバットは現在、クーパースタウンの野球殿堂に展示されているのだが、このバットが今、騒動の的になっている。ヤンキースでマントルとチームメイトだったジョー・ペピトーンが「バットの所有者は自分だ」として、殿堂を告訴したのだ。

 現在80歳のペピトーンの名を、聞き覚えのあるプロ野球ファンもいることだろう。メジャー通算219本塁打の実績を引っ提げて73年にヤクルトへ入団した「あの」ペピトーンだ。残念ながら、日本でのペピトーンは「お騒がせ助っ人」の代名詞となっている。アキレス腱を痛めて欠場したのにディスコで踊りまくる姿が目撃されたり、何度も無断帰国したりとトラブル続き……。結局、出場は14試合だけで"史上最悪の助っ人"とも呼ばれる男だ。

 ただ、ペピトーンはヤンキース時代にもトラブルメーカーとして知られていたものの、3番マントルの後の4番を打ち、オールスターにも3度出場するなど、少なくとも実力は高かった。

 マントルは500本塁打の際、いつも使っている自分のバットではなく、それよりも軽いペピトーンのバットを使ったともいう。前のイニングでペピトーンが本塁打を放っていたので、ゲンを担いだのがバットを借りた理由だったのかもしれない。野球殿堂に展示してあるルイビル・スラッガーのバットには、確かにペピトーンのサインが刻印されている。
 
 米メディア『The Athletic』などによると、ペピトーンの主張はこうだ。試合後のロッカーからバットがなくなっていて、球団の広報部長に殿堂へ貸したと言われた。その後、ペピトーンは何度か殿堂を訪れ、バットは自分の物だと伝え、昨年9月には返却を求めたところ殿堂に拒否され、今回の告訴に至ったのだという。

 一方、殿堂側は「このバットは85年以上にわたり、選手、球団、リーグ、ファンから寄贈された品々の一つ」とコメントし、あくまでもヤンキースから譲り受けたものだと主張している。

 マントルは95年に63歳で亡くなった。当時ヤンキースの広報部長だった人物も、すでにこの世にいない。真相ははっきりとせず、訴えの結果がどうなるかも分からない。

 半世紀以上も経った今になって、ペピトーンがバットを返してほしいと言い出した理由も不明だ。ヤンキースひとすじにプレーして殿堂入りしたマントルは、今でもレジェンドとして人気があり、このバットには5000万から1億円の価値があるらしい。もしかするとペピトーンは何らかの理由で金が必要となり、このバットを欲しているのかもしれない。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。