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大谷翔平も誤審の“犠牲者”に。それでもMLB5376試合を裁いた名物審判の引退に想う寂しさ

THE DIGEST編集部

2022.02.05

大谷も悩まれたウェストの判定。そんな名審判がひっそりと球界を去った。(C)Getty Images

 昨年12月2日からロックアウトに突入しているMLB。あらゆる交渉がストップし、米球界全体で話題が枯渇するなか、長年、野球界を支えてきた男がひっそりと引退を決めた。審判員のジョー・ウェストである。

 1976年に「伝説のナックルボーラー」として殿堂入りを果たすフィル・ニークロの登板試合を裁き、MLBでの審判人生は始まった。それ以降もウェストは、1981年にノーラン・ライアンが通算5度目のノーヒットノーランを達成したドジャース戦など、球史を彩ったさまざまな名場面に"立ち合った"。

 裁いた試合は5376。これは1905年から36年間活躍したビル・クレムのそれ(5369)を超える歴代トップの数字だ。まさに金字塔と言っていいだろう。

 そんな名審判は、頑として強気な態度を貫く姿勢から「カウボーイ・ジョー」の愛称でも親しまれた。彼は自身の判定に不満を漏らす選手や監督に対して、「なんだ? 文句でもあるのか?」と言わんばかりの態度を見せ、問題となる時もあった。それはたとえ、明らかに間違った判定だったとしても変わらなかった。

 2019年にボストン大学のマーク・ウィリアムズが独自データを基に行なった調査で、ウェストは1試合あたり2.3回もの間違った判定していると判明。その"誤審"が話題となる機会も少なくなかった。2018年には、当時パドレスの指揮官を務めていたアンディ・グリーンが退場を命じられた際に、「ジョー、あんたはそうやってまた誤審をしていればいい」と吐き捨て、物議を醸した。

 昨年には、日本でも話題となった。二刀流で一大ムーブメントを巻き起こした大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)が、"犠牲"となったからだ。

【動画】大谷翔平が「ん?」。思わず首を傾げたウェスト主審の判定シーンをチェック
 最も物議を醸したのは、8月2日に行なわれたレンジャーズ戦。初回の第1打席だった。カウント3-1から外角低めに投げ込まれた一球を大谷はボールだと確信して堂々と見送って一塁へ歩きかけていた。しかし、ここで球審を務めていたウェストは、「ストライク」とコールしたのだ。

 答は明確だった。MLBではトラッキングデータやストライクゾーンが一目で分かるようになっているのだが、大谷が見送った球は明らかにゾーンから外れていた。しかし、自信ありげな表情を浮かべる御大には、さすがの偉才も首を傾げ、現地中継を担った元MLB投手のマーク・グビザも「ボール2個分外れているのになぜだ」と疑問を投げかけた。

 無論、数多の試合を裁いてきた69歳は選手からリスペクトされている面もあった。2017年のオールスターでは、打席に入ろうとしたネルソン・クルーズ(マリナーズ)が「あなたはレジェンドだから」と突如として要求した2ショット撮影に快く応じるなど、その人間っぽさが愛されていた。

 近年、ロボット審判が導入などジャッジの正確性を向上しようという動きは球界で加速している。そんな情勢下で人間味のある振る舞いが、良くも悪くも話題となった名物審判がいなくなるのは、いささか寂しいものがある。

構成●THE DIGEST編集部

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