プロ野球

「正解は選ぶものではなく自ら作るもの」。佐々木朗希の「岩手県大会決勝登板回避」を改めて考える<SLUGGER>

西尾典文

2022.04.14

歴史的な完全試合を成し遂げた佐々木。今こそ振り返る、県予選決勝を回避した“あの選択”の意義。写真:産経ビジュアル

 4月10日のオリックス戦で、佐々木朗希(ロッテ)はプロ野球28年ぶりの完全試合を達成した。わずか105球で歴代最多タイとなる19三振を奪い、13者連続奪三振という前人未到のプロ野球記録も樹立した。今年で21歳、そしてプロ野球選手としてはまだ細いその身体つきを考えても、これから数多くの大記録を積み上げていく可能性は高いだろう。

 この快挙によって再びクローズアップされているのが、「高校時代の起用法」だ。2019年夏の岩手大会決勝、大船渡高を指揮する国母陽平監督は、エースの佐々木を登板させることなく花巻東に大敗。甲子園出場を目前にしてのこの采配に賛否両論が巻き起こる大騒動となった。

 今回、佐々木が大記録を達成したことで、この判断が正しかったという意見がある一方、起用しなかったことと佐々木の成長について明確な因果関係はないとの声も少なくない。前者の意見では斎藤佑樹(元日本ハム)や安楽智大(楽天)のように、甲子園で大活躍しながらその後故障に苦しんだ投手の例を挙げ、後者の意見では松坂大輔(元西武)や田中将大(楽天)のように高校時代に多くの球数を投げてもプロで超一流の成績を残している投手がいることを主張する声も聞かれる。

 大阪桐高蔭の西谷浩一監督は「甲子園は掛け算で選手が成長する場所」とも話しており、佐々木が甲子園に出場していたらもっと凄い投手になっていた可能性も否定できない。逆に、松坂や田中が高校時代に無理をしなければプロ入り後の故障もなく、日本でもメジャーでもさらに凄い数字を残していたかもしれない。
 
 しかし、それらはすべてが仮定の話であり、佐々木やここで挙げた投手たちが現実とは異なる高校時代を送った時の姿はすべて想像するしかなく、どちらが正解という話でもない。ただ確実に言えることは、3年前の岩手大会決勝で国母監督が佐々木を登板させても、登板させなくても批判の声は上がったということだろう。

 佐々木はこの決勝戦の前までに4試合に登板しており、4回戦の盛岡四高戦では延長12回完投、194球を投じている。それから3日後に行われた一関工高戦でも129球で完封し、決勝戦はそれから休養日なしの連戦で臨むスケジュールだったのだ。

 以前の高校野球では短期間でこれだけの球数を投げることも珍しくなかったが、近年の風潮を考えれば、決勝にも先発させていたら「酷使」として批判する声は上がったはずである。温存してもバッシング、投げさせてもバッシング、それはあたかも倫理観のジレンマを問う「トロッコ問題」のような状態だったのだ。

【動画】佐々木朗希が19K完全試合達成! 全ハイライトがこれだ
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科学という客観的手法で佐々木を“守った”国母監督