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プロ野球

「正解は選ぶものではなく自ら作るもの」。佐々木朗希の「岩手県大会決勝登板回避」を改めて考える<SLUGGER>

西尾典文

2022.04.14

 もう一つ確かなことは、国母監督が「個人的な感覚」に頼って登板の判断をしたわけではないということである。

 国母監督が大学時代プレーしていた筑波大はスポーツ科学の研究において国内屈指の機関。同大野球部で指揮を執りながら研究を重ねている川村卓准教授に、国母監督は佐々木について相談しており、身体の状態も逐一チェックしている。その結果、肉体の成長がまだ止まっていない状態で出力を上げることは危険と判断し、高校日本代表候補合宿で163キロをマークした後は明らかに力を抑えたピッチングに終始している。

「佐々木の起用法が過保護で成長の機会を与えなかった」という声もある。しかし、前述したように決勝戦の前では登板を重ねており、2年夏の盛岡三高戦でも一人で142球を投げ抜いている。それを考えると、決して“投げさせなさすぎ”だったということはないだろう。
 
 佐々木の才能を生かしてチームが勝つことを第一に考えれば、有無を言わさずに決勝戦でも先発起用していただろう。この前年には吉田輝星(現日本ハム)が甲子園で“カナノウ(金足農)フィーバー”を巻き起こしたことを考えれば、佐々木と心中する選択も当然考えられたはず。古き良き高校野球、甲子園を望むのであれば、それも正解だっただろう。

 ただ国母監督はそうではなく、あらゆる科学的なアプローチを行った上で、「目の前ではなく将来を考えて」判断したということである。

 そして冒頭でも触れたが、どちらが正解という話ではない。ただ、国母監督の将来を考えての判断に対して、佐々木は今のところ完璧に応えていることを称賛すべきではないだろうか。18歳にして重い荷物を背負ったにもかかわらず、その期待を裏切ることなく成長し続けているのは見事という他ない。

「正解は選ぶものではなく自ら作るもの」。あの完全試合でのピッチングは、“令和の怪物”からの無言の声が聞こえてくるようだった。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している

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