プロ野球

井口監督のぶれない決断。“完全試合”で佐々木朗希を降板させた、「世界の宝」を預かる男の覚悟と見据える未来

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2022.04.18

2試合連続で完全試合投球を見せた佐々木(左)。井口監督(右)の快挙の途中で降板を決めたその信念とは? 写真:産経ビジュアル

 2週続けて、週末の日曜日が異常な盛り上がりを見せた。

 佐々木朗希は4月17日に行なわれた本拠地での日本ハム戦に先発すると、8回まで完全試合の圧巻のパフォーマンスを披露。前週の10日のオリックス戦でプロ野球史上16人目のパーフェクト・ゲームを、13者連続奪三振をはじめ数々の記録を打ち立て"世界最高"の投球で達成していたが、2試合連続という前人未到の偉業まであと1イニングに迫った。

 しかし、井口資仁監督はここで"令和の怪物"の降板を決断。試合は延長戦に入り、この日チーム唯一の安打がホームランになった日本ハムが1対0で制している。そしてやはり、この交代劇には賛否両論の声が集まった。

「完全試合の最中に降板させるなんてありえない」「プロ野球は興行なんだ」という意見もあれば、「試合が0対0の展開もあって降板はやむなし」「球数もかさんでいたのだからしょうがない」と擁護する声もある。

 確かに前代未聞のピッチングとあって、降板劇に落胆するのも理解はできる。しかし、ここで改めて分かったのは、井口監督含めたロッテのフロントが、佐々木という逸材を本当に大事にしていることだろう。

 高校3年次に163キロを出した逸材を4球団競合の末に獲得したロッテは、プロ1年目に一軍はおろか二軍でも登板させなかった。佐々木の誇る出力に現状の肉体では耐えられないと判断し、身体づくりに専念させたのだ。しかし、日本プロ野球では高卒選手であろうとも1位指名の選手は即戦力との見方が強く、「過保護」との声も方々から聞かれた。

 しかし、ロッテはぶれなかった。逸材の将来を見据え、しっかりとした育成プラン通りに進もうと決断した。2年目にベールを脱いだ佐々木だったが、登板翌日には出場選手登録を外れ、2週間に一度の間隔で登板。10月になってほぼローテーション通りの登板をしたものの、年間では11試合に先発して100球を超えたのもデビュー戦だけと、本当に慎重に起用し続けた。

 そして今シーズン、佐々木は通常の「中6日ローテーション」を初めて経験。3月27日の初登板からこの日までその間隔を守って投げ、4月10日、17日に衝撃的すぎる投球を見せた。しかし、平均160キロ近く投げる豪腕の肉体への負荷は誰にも分からない。

 さらに、凄すぎるゆえにイニング数も球数も増え、ここ3試合は経験していない100球以上の登板を繰り返している。また、プレッシャーのかかる場面での投球でヒジへのストレスは強くなるとのデータもあり、2試合連続完全試合という状況はおそらく相当な負荷があっただろう。

 それでもなお、「プロ野球は興行なのだから」という意見にはやはり、ロッテ首脳陣が常に考えている「長期的な楽しみ」という視点を忘れてはならない。もし9回も投げていたら、その裏にサヨナラ勝ちで完全試合を達成していたかもしれない。しかし、その保証はないし、それはいたずらに佐々木をより過酷な状況で投げることにつながってしまう。

【動画】2試合連続"完全試合"! 佐々木朗希の圧巻投球ハイライト
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佐々木が“完全開花”すれば、毎試合パーフェクトもある。それがロッテの見据える未来