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プロ野球

大野雄大は「笑顔」と「感謝」、そして「ユーモア」を忘れない。完全試合が幻に終わっても――<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2022.05.07

10回2死まで完全試合を継続した大野。悔しさがこみ上げていいはずが、最後まで彼らしい笑顔がそこにあった。写真:産経ビジュアル

10回2死まで完全試合を継続した大野。悔しさがこみ上げていいはずが、最後まで彼らしい笑顔がそこにあった。写真:産経ビジュアル

 ああそうだ、この男は常に「仲間」のことを想う優しい選手だった――5月6日の阪神戦、10回2死まで完全試合の快投を演じた中日のエース・大野雄大のことである。

 本拠地バンテリンドームで行われた阪神戦。大野は序盤からタイガース打線を手玉に取る。ビシエドや高橋周平、岡林勇希のファインプレーも後押しし、気づけばスコアボードに「0」が並んでいく。しかし悲しいかな、中日打線も「0」が続く。8回裏に2死一、三塁の好機を作って大野自身が決めるチャンスもあったが、センターフライに終わって場内をため息が包んだ。

 9回も三者凡退に抑えた大野。普通ならこの時点で大記録達成となるはずが試合終了とはならず、9回裏もドラゴンズが無得点に終わって試合は延長戦に突入する。迎えた10回表、簡単にツーアウトを取った大野だったが、佐藤輝明に右中間を破る二塁打を浴びて大記録は幻に終わった。

  その裏の攻撃で石川昂弥がサヨナラ打を打ったものの、この試合の大野の投球は「単なる完封」として記録されることとなった。

【動画】最後は石川が決めた! 大野も若竜の劇的打に笑顔

 大野が落胆した仕草を見せたとしても、彼を責める人は誰もいないだろう。しかし、ドラゴンズのエースは笑顔だった。石川のサヨナラ打の瞬間、ペットボトルを2つ持って駆け足で祝福しにいくその姿は、野球小僧そのものだった。試合後のインタビューでも、大野は笑みを絶やさず、自身の快投よりも味方を讃え続けた。

 好守を連発したナインに「ほんまにみんなよく守ってくれたと思いますし、ありがたかったですね」と言えば、殊勲の石川にも「絶対打ってくれると思ってました。前回の甲子園の時も(ユンケルを)あげて本塁打を打ってくれた。箱ごと買います。これからは(笑)」と、“口から生まれたサウスポー”(大野の愛称)らしい饒舌でファンを沸かせた。
 
 思えば、大野が3年前の2019年9月14日にノーヒッターを達成した時(この日も阪神戦だったが)も、彼はチームメイトへの感謝が止まらなかった。「(高橋)周平がいいところにいてくれたので、めちゃくちゃ喜んじゃいました」「加藤(匠馬/現ロッテ)が途中で代わっちゃったんですけど、加藤と大野奨太さんに、あとは野手のみなさんに感謝したいです」。

 球団新の6試合連続完投を記録した20年もそうだ。「自分が投げているのは1週間のうちの一度だけ。6日間の試合は、僕以外の選手が必死にプレーしているのを見ていたら、だんだんと力が湧いてきて」と、周囲のサポートを強調していた。
 
 大野という人間は、常に周りへのリスペクトを忘れないのである。

 昨年の東京五輪での金メダル授与式。大野は首に掛けた栄誉の称号を、そっと天に向けた。この数日前に亡くなった木下雄介さんとの「金メダルを取ったら見せてください」との約束を守るために。

 ユーモアを忘れない男でもある。試合後に球団公式アカウントがツイッターに投稿した画像には、おちゃらけながら人差し指を掲げる大野の姿があった。

 いわゆる“ムエンゴ”が原因で大記録を逃す結果となり、もしかしたら内心は悔しい思いも多少はあるのかもしれない。だが、そんな素振りは微塵も見せずにチームの勝利を喜び、まるで打者たちをフォローするかのようにおどけた表情でカメラに収まる。

  ストイックに我が道を行くエース像とはまた別の、大野ならではの人間味あふれたエース像は、こんな時だからこそたまらなく魅力的に映る。

構成●新井裕貴(SLUGGER編集部)

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