プロ野球

ノーヒッター達成でも笑顔なし。山本由伸が追い求める「100点」のピッチングへの渇望<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2022.06.19

自身初のノーヒッターを達成した山本。笑顔なき快挙になったのは、彼の本質を考えれば納得だった。写真:徳原隆元

 やはり、この男は快挙にも満足しないんだな、と感じさせる瞬間だった。

 6月18日、プロ野球史にまた一つ大記録が刻まれた。オリックスの山本由伸が西武戦で史上97度目(86人目)のノーヒットノーランを達成したのだ。許した走者は5回2死から外崎修汰に四球を与えたのみで、わずか102球での圧倒劇。敵地ベルーナドームでの登板だったが、その投球は敵味方の概念を超えて美しさすら漂っていた。

 もっとも、山本は最後のバッターをファーストゴロに打ち取り、自らがベースを踏んで閉幕させても、笑顔はなかった。軽くガッツポーズをしたくらいで、チームメイトから手洗い祝福を受けて初めて笑みがこぼれていた。

【動画】山本由伸のノーヒッター達成の瞬間をチェック!

 これだけの快挙である。2019年に大野雄大(中日)がノーヒッターを達成した際の大喜びしたシーンがそうであるように、普通は全力で達成感を味わうもの。しかし、山本は違った。だが、それでこそ山本由伸という投手の"性(さが)"なのである。

 以前、山本に取材をした際、「100点と思う投球はあるか?」と訊ねたことがある。記者が個人的に満点に近いと思った試合として、2019年4月3日、ソフトバンク打線を8回1死まで無安打に抑えて9回0封に抑えたゲーム、21年4月1日の同カードで二塁を踏ませず13奪三振完封勝利を挙げたものを提示した。しかし山本は、「ないですね」ときっぱり返したのである。
 
 しかも、だ。先に挙げた試合も、山本からすれば「70点とかそこらじゃないですかね」というのだ。思わず「え!?」と返してしまったが、むしろこちらの反応が普通だろう。

 山本は続けてこう言った。

「完封した試合でも、少しでも狙いと違うボールがあればそれは完璧とは言えないですし、どうしても納得できない部分がある。例えば、小学生とか相手に27連続で三振に取ったとしても、きっと楽しくないですし、それも100点とは違うでしょうね」

 高みに上ることへの飢え――とでも言えるだろうか。この男は、自らに一切妥協することなく、最高の、完璧な投手になることに対して、あまりに純粋で貪欲なのである。

 だからこそ、自身初のノーヒットノーランを達成しても、笑顔やガッツポーズを見せることはしないのだ。少なくとも、フォアボールを出しているようではダメということなのだろう。

 高卒3年目で最優秀防御率のタイトルを獲得し、20年は奪三振王、そして昨年は史上8人目の投手5冠。ここにノーヒッターの勲章も加わった。無双状態の山本に対し、山川穂高(西武)は「早くメジャーに行ってほしい。(マイク・)トラウト(エンジェルス)とかと対戦するのを見てみたい」と脱帽。実際、山本も昨オフの契約更改で将来のメジャー挑戦について初めて公言し、その時期が確実に近づいていることは間違いない。

 今年の8月でまだ24歳。"伸びしろ"しかない天才は果たして、今後どれだけ「100点」に近い投手へと近づくのだろうか。断言できるのは、山本がその歩みを止めることはない、ということである。

文●新井裕貴(SLUGGER)

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