高校野球

史上3度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭。藤浪、根尾世代のような“スター不在”のチームの強みは何か?【高校野球】

西尾典文

2022.08.06

強肩強打の正捕手である松尾(右)に、エースナンバーを背負う川原(左)。この二人を筆頭に、この夏の大阪桐蔭には成長著しい選手が揃っている。写真:滝川敏之

 8月6日に夏の全国高校野球選手権が開幕する。大会の大きな注目ポイントと言えば、やはり3度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭の戦いぶりだ。2012年には藤浪晋太郎(阪神)、森友哉(西武)、2018年には藤原恭大(ロッテ)、根尾昂(中日)らを擁して春夏連覇を達成しているが、当時のチームと比べて今夏のチームはどうなのか。これまでの戦いぶりから探ってみたいと思う。

 まず、過去に春夏連覇を達成した2チームと大きく異なっているのが、下級生の頃から騒がれるようなスター選手はいないという点だ。2012年のチームでは藤浪が2年春には既にエースとして大成。さらに1学年下の森も1年秋から正捕手として活躍していた。そして、2018年の主力であった根尾は中学時代から全国的に知名度が図抜けており、同学年の藤原、柿木蓮(日本ハム)、中川卓也(早稲田大)、山田健太(立教大)なども下級生の頃からチームの中心に据えられていた。

 一方、今年のチームを見てみると中学時代から評判だった選手は当然いるものの、旧チームでレギュラーだったのはキャッチャーの松尾汐恩だけ。むしろ期待値が高かったのは、松浦慶斗(日本ハム)、関戸康介(日本体育大)、池田陵真(オリックス)などが揃っていた1学年上の世代だったのは間違いない。西谷浩一監督や主将の星子天真が口を揃えて今年のチームについて跳び抜けた選手がいないと言うのは、単なる謙遜だけではなく、過去のチームと比べれば、実際その通りだという見方もできる。

 では、そんなチームに春夏連覇を狙える要素はあるのだろうか。
 
 何よりも大きいのが、秋以降の成長である。昨秋は明治神宮大会で初優勝を果たしているのだが、チームをけん引したのは、松尾と当時1年生だった前田悠伍であり、特に上級生の投手陣は不安な部分が大きいというのがもっぱらの評判だった。しかし、冬の間には川原嗣貴が大きく成長。春の選抜では先発した2試合でしっかりと試合を作り、決勝戦でもリリーフで試合を締めるなどエース格と言える活躍を見せた。

 さらに、この夏は選抜まで背番号1をつけていた別所孝亮も2回戦で自己最速を更新する150キロをマーク。大阪大会ではチームトップの20イニングを投げて被安打3、無失点、21奪三振と圧巻のピッチングを見せた。川原、別所ともに下級生の頃からポテンシャルの高さは見せていたものの、どちらかというと伸び悩んでいる印象が強かった。それだけに、最終学年になってからの成長は見事という他ない。

 藤浪ほどの超目玉という投手はいなくても、左右のバランスやそれぞれの特徴を考えるとバリエーションにも富んでおり、歴代のチームでもトップと言える投手陣が出来上がったことは大きな強みである。実際、大阪府予選の7試合でも失点はわずかに「1」。全国の舞台でもライバル校がこの投手陣から大量点を奪うのは、至難の業と言える。
 
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