高校野球

プロ野球の1シーンを見るかのよう。鳴門の左腕エースが2者連続三振で見せたポテンシャル<SLUGGER>

氏原英明

2022.08.08

1回戦敗退という結果に終わった鳴門のエース富田。だが、それでも爪痕は残したと言える。写真:滝川敏之

 まるで、プロ野球の1シーンを見るかのようだった。

 4回裏のことだ。1死満塁のピンチを背負った鳴門高の左腕エース冨田遼弥は、近江高の8番・大橋大翔をインコースのスライダーで三振。続く9番・小竹雅斗も、同じくヒザ下に落ちるスライダーで連続三振に切って取った。

「満塁にはなったんですけど、しっかり打ち取っていこうと思っていました。ピンチのときにインコース低めにしっかり投げ切ることは、春のセンバツの時から自分のピッチングの生命線というか、大事な部分になっていた。そこは自信を持って投げることができました。2者連続三振っていう最高の結果になったので良かったと思います」

 満塁という逃げ場のない窮地の中での圧巻のピッチング。冨田の持つポテンシャルの高さに惚れ込んだのもいうまでもない。

 もっとも、この試合で言えば、これが冨田の見せた最後のベストピッチだった。センバツ準優勝校の近江は、実力・経験値とも鳴門の1枚も2枚も上を行くチームだったのだ。
 
 試合は1回に鳴門が幸先良く先制する。

 鳴門の1番・井川欧莉が遊撃内野安打で出塁すると、2死から4番の前田一輝が右中間を破るタイムリー三塁打で1点を先制した。

 ところが、すぐさま近江の反撃を浴びる。その裏、1死から2番の清谷大輔がセンター前ヒット。犠打で二進の後、4番の山田陽翔にセンターオーバーの同点タイムリー二塁打を放ったのだ。

 2回に鳴門は相手のミスから1点を勝ち越すも、そこからは近江の山田を中心としたチーム力の高さに圧倒されていく。エースの山田が8回で13個の奪三振ショーを展開。時に味方のミスから走者を許すが、それでも顔色を一つ変えずに打者を打ち取ってく山田の存在感はとても大きかった。

 一方の鳴門は冒頭の4回のピンチを冨田が抑えて難を逃れたものの、その後は好機をつかめない。5回表は2死からエラーで出塁したものの、山田の圧巻のピッチングの前に沈むと、直後にまたピンチを迎えたのだった。

 5回裏、2死二塁で冨田は4番の山田を申告敬遠し、5番・横田悟との勝負に出る。しかし、横田にはフルカウントからファールで粘られ、最後は甘く入ったところを右中間にタイムリーを打たれた。
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鳴門の攻撃は短く、近江の攻撃は長かった