MLB

危さを孕んだ「神童」から安定感を備えたリーダーへ。フィリーズを頂上決戦まで導いたブライス・ハーパーの「成熟」<SLUGGER>

杉浦大介

2022.10.30

30歳となったハーパー。チームリーダーにふさわしい風格も出てきた。(C)Getty Images

「第1戦で先勝できたのは大きい。(アストロズは)いいチームだし、ファンも熱狂的だ。ファンも、選手も、こういう重要なゲームをたくさん経験している。そんな中でも、俺たちは自信を持っているよ」

 ワールドシリーズ第1戦を6対5で制した後、フィリーズのブライス・ハーパーは自身のロッカー前で静かにそう語った。ビッグゲームに臨んだ選手が手応えを語るのは当然のことではある。それでも、いつしか30歳になったスラッガーの言葉は本物の自信に裏打ちされた説得力を持って響いてきた。

 それも当然だろう。今秋絶好調のハーパーは、ワールドシリーズ第1戦までのポストシーズン計12試合で47打数20安打(打率.426)、5本塁打と大活躍を続けてきた。しかも、5本塁打のうち先制弾が2本、逆転弾は1本と驚異的な勝負強さを誇っている。特にワールドシリーズ進出を決めたパドレスとのリーグ優勝決定シリーズ第5戦では、2対3で迎えた8回裏に今ポストシーズン絶好調だったロベルト・スアレスから劇的な逆転決勝2ランを放ってフィラデルフィアの街を熱狂させた。

 メジャー11年目にして初めて迎えたワールドシリーズでも、第1戦で4打数2安打1四球を記録。この主砲に引っ張られるように、ワイルドカード6位だったフィリーズも快進撃を続けている。
「試合終了までには27アウトが必要だ。俺はチームメイトを絶対的に信頼している。序盤に5点のリードを奪われても慌てたりはしなかった」

 3回までに5点をリードされながら、ポストシーズン7勝0敗だったアストロズに延長の末に逆転勝ちを飾った後、ハーパーが残した言葉からは落ち着きが感じられた。ここまで来たら、もうこの勢いは本物なのだろう。一皮剥けた主砲に支えられたフィリーズの行く手に、誰も予想だにしなかった栄冠が少しずつ見えてきている。

 ハーパーがメジャー屈指のスーパースターであることに疑いの余地はないが、その一方でこのスラッガーは常に不安定さを感じさせる選手でもあった。

 2009年、16歳にしてアメリカの人気スポーツ誌『スポーツ・イラストレイテッド』誌の表紙を飾ったハーパーは、その後も順調に階段を上がっていった。10年のドラフト全体1位でナショナルズに入団すると、12年に新人王を獲得。15年、昨季と2度もMVPに輝き、FAになった2018年オフには当時史上最高額の13年3億3000万ドルでフィリーズに移籍した。