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アーロン・ジャッジは「62本塁打だから凄い」のではない。真に“歴史的”な打棒の意味を紐解く<SLUGGER>

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2022.11.02

ア・リーグ新記録の62本塁打を放ったジャッジ。その数字だけでは見えてこない、彼の偉大さを紐解いていこう。(C)Getty Images

 ワールドシリーズの熱戦が続くメジャーリーグ。頂上決戦が終われば、ストーブリーグが幕を開ける。そして、11月18日にはいよいよ2022年のMVPが発表される。果たして大谷翔平(エンジェルス)の2年連続の戴冠はあるのか。最大のライバルに挙げられているのが、ヤンキースのアーロン・ジャッジだ。

 これまでも名門球団の主砲として見事な活躍を見せてきたジャッジだが、FAイヤーの今季は驚異的なペースでアーチを量産。最終的には62本塁打を放ってロジャー・マリスのア・リーグ記録を塗り替えてみせた。それだけでなく、最終盤まで首位打者争いにも参戦。惜しくも打率.311でリーグ2位に終わったものの、本塁打&打点の二冠を手中に収め、MVP最有力候補と目されている。

 7月頃からは、現地でも大谷とジャッジのどちらがMVPを獲得するのかが大きな話題を集め、日本でも多くの媒体がさまざまな意見を取り上げてライバル関係を盛り上げている。もっとも、論争が白熱した結果、とりわけジャッジへの"不当"な声が散見されるようにもなった。

「ジャッジくらいの活躍は過去にもあった」「本塁打記録はすぐに塗り替えられる可能性がある」「ジャッジは本塁打だけ」「62本はメジャー記録でもない」……といった意見だ。おそらくこれらは、大谷がよりMVPにふさわしいという意図から出てきたものだが、あまりにもジャッジへのリスペクトを欠いているように思う。そこで改めて、今シーズンのジャッジがどれほど素晴らしい活躍を見せたのか検証してみたい。
 
 繰り返しになるが、ジャッジは今季62本塁打を放ってア・リーグ記録を更新した。ひとえにこの記録だけでも素晴らしい偉業だが、「ジャッジ以上」の選手がいることも事実だ。過去、バリー・ボンズ(73本)、マーク・マグワイア(65本・70本)、サミー・ソーサ(63本・64本・66本)の3人がジャッジを上回る本塁打数を記録している。

 しかし、よく知られていることだが、この3人はいずれもステロイドなどの薬物を使用していた疑いが色濃くあり、圧倒的な実績を築き上げながらもまだ殿堂入りは果たせていない。それゆえ、「マリスの61本こそが真のホームラン・レコード」と考えている人は少なくなく、実際マリスの息子は「ジャッジこそが真のシーズン本塁打記録保持者」と主張している。ジャッジの「ア・リーグ記録」達成が大きな注目を集めていたのは、こうした背景がある。

 歴史的文脈だけでない。今季からメジャーリーグでは「飛ばないボール」が導入され、投高打低が加速。平均打率.243は1900年以降で歴代ワースト4位まで低下し、2019年に6776本塁打を数えた総本塁打数は5215本まで減少した。こうした環境にあって、ジャッジだけはどこ吹く風で本塁打を量産し続けた。

【動画】ジャッジの"歴史的"62号本塁打! 感動の瞬間をチェック 
 
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数々の数字がジャッジの“傑出度”を示している