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明確な「基準」がない中で誰を選ぶべきなのか。アメリカ野球殿堂入り投票権を持つ日本人記者の悩み<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.12.26

左からローレン、ヘルトン、ジョーンズ。3人とも殿堂入り確定までには至っておらず、投票結果が注目される。(C)Getty Images

 先日、MLBでもプレーした上原浩治氏と藤川球児氏が「名球会」入りを果たした。

 2019年の総会で創設された「理事会推薦と会員4分の3以上の承認」により入会できる「特別枠」の初めての適用例となったそうだ。わざわざ「特例」なんてつける必要があるのは、本来最も権威があるべき野球殿堂と違って、名球会に「投手なら200勝か250セーブ以上」という厳格な入会条件があるからだろう。

 上原氏は日米合算134勝、128セーブ、藤川氏は同61勝245セーブと、いずれも「200勝か250セーブ以上」の条件を満たしていないが、250セーブは200勝の0.8倍の価値(=200÷250)、200勝が250セーブの1.25倍の価値(250÷200=1.25)があると考えれば、いずれもすでに条件を満たしていたと言える。

 上原氏は128セーブ×0.8=102勝+134勝で通算236勝、藤川氏も61勝×1.25=76.25セーブ+245セーブで通算321セーブに達するのだから、名球会の理事会も無視できなかったのではないか。

 今回のニュースを外国から見ていると、野球殿堂よりも名球会の方が格上に見える。だが、それはともかく明確な入会条件=基準があれば、今回のような「特例」以外、選考する側は何一つ悩まなくていいのだから、それはちょっと羨ましくもある。

 全米野球記者協会(BBWAA)に所属して10年が過ぎた2016年の冬から、アメリカ野球殿堂の記者投票を要請する手紙が届くようになった。
 
 公式戦終了時に投票が締め切られるMVPやサイ・ヤング賞はネットで投票できるのに対し、殿堂入り投票は伝統と格式を重んじるからか郵送形式を貫いている。毎年、殿堂から送られてくる投票用紙の候補者一覧のボックスに「投票」を意味するチェックをつけて、12月31日(当日消印有効)までに送らなければならない。念のため書いておくと、得票率が75%に達した候補者が殿堂入りすることになっており、昨年はレッドソックスで活躍したデビッド・オティーズが得票率77.9%で殿堂入りした。

 事前にメールで「投票するか否か?」を問われる。もしも、その責任を背負いたくなければ、投票はしなくていい。実際、過去数年の投票では、バリー・ボンズやロジャー・クレメンス、あるいはサミー・ソーサら、明確な証拠はないものの、さまざまな検証から薬物使用がほぼ確実とされる「本来は殿堂入り確実」の候補者がゾロゾロいたので、棄権した人もいたようだ。

「禁止薬物のおかげで殿堂入りに値する記録を残した」と見られている候補者に投票するのは是か非か? という問いは、その線引きが曖昧なまま、今も放置されている。

 今年の有資格者の中にも、禁止薬物使用を認めて謝罪会見もしながら、MLB歴代6位の通算696本塁打を記録したアレックス・ロドリゲスや、薬物検査で2度も陽性反応が出た歴代15位の通算555本塁打のマニー・ラミレス(レッドソックスほか)、歴代26位の509本塁打を記録したゲリー・シェフィールド外野手(マーリンズほか)、MLB通算256勝に加え、ポストシーズン最多の歴代19勝を挙げた左腕アンディ・ペティット(ヤンキースほか)が入っているものの、ボンズとクレメンスが選出されなかったのだから、彼らが選出される可能性は少ない。

 むしろ、通算2077安打&316本塁打を記録したスコット・ローレン三塁手(カーディナルスほか)、通算219安打&369本塁打でゴールドグラブ(GG)賞4度のトッド・ヘルトン一塁手(ロッキーズ)、歴代6位の通算422セーブを記録したビリー・ワグナー投手(アストロズほか)、通算434本塁打&GG10回、東北楽天でもプレーしたアンドリュー・ジョーンズ外野手(ブレーブスほか)が有力候補となっている。
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