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MLB

「コロナ禍で経営不振」「ベースボールは儲からない」――大型契約乱発で露見したオーナー側の「嘘」<SLUGGER>

出野哲也

2022.12.22

ジャッジはFAでは歴代最高額となる9年3億6000万ドルでヤンキースと再契約した。(C)Getty Images

ジャッジはFAでは歴代最高額となる9年3億6000万ドルでヤンキースと再契約した。(C)Getty Images

 アーロン・ジャッジ(ヤンキース)が9年3億6000万ドル、カルロス・コレア(メッツ)が12年3億1500万ドル、トレイ・ターナー(フィリーズ)が11年3億ドル……。今オフのMLBはとんでもなく景気のいい話が飛び交っている。

 吉田正尚や千賀滉大も、日本では到底考えられないほどの金額を手にした。その羽振りの良さは、新労使協定の交渉が行き詰まり、オーナー側がロックアウトを実施して、2022年のシーズン開幕が危ぶまれていたのがほんの1年前とは思えないほどだ。

 その労使交渉で、オーナー側は戦力均衡税の課税ラインの引き上げや若手選手の待遇向上といった、選手会の要求をことごとくはねつけていた。「20年のコロナ・パンデミックで全試合が無観客となったことにより、どの球団も経営状況は悪化している。譲歩する余裕などない」――というのが彼らの言い分だった。

 中立な立場を捨ててオーナー側の代弁者と化していたロブ・マンフレッド・コミッショナーも「野球チームの経営は株取引などと比較すると、利益が少ないリスキーなビジネス」などと語っていた。

 ところが、1年後にはそのような言辞を翻す超大型契約が乱発されている。こうした光景を見るにつけ、当時のオーナーたちの主張は真っ赤な嘘――とまでは行かないにしても、相当に“盛っていた”のでは? と疑わざるを得ない。控えめに言っても、彼らの主張は少しでも自分たちの「取り分」を守ろうとするための方便だったことは間違いない。

 今季のMLBは、総収入が110億ドルを超えて過去最高を記録。観客動員数が6455万6678人でコロナ以前の94%にまで回復したほか、ジャッジや大谷翔平(エンジェルス)の活躍のおかげで、グッズ収入なども好調だった。加えて、3月にはアップルと年間8500万ドル、NBCスポーツとも同様に3000万ドルの動画配信契約を結んでいる。だからロックアウト突入時より、格段に各球団の財政状況は良くなっているのは確かだ。
 
 けれども、これは「富める者がさらに富んだ」だけであって、ロックアウト突入時点でことさら窮状に陥っていたということはない。急激に懐事情が改善されたから、今オフの大型契約が可能になったわけではないのだ。

 今年2月、ブレーブスを所有するリバティ・メディアの決算報告書が公表された。そこには、21年のブレーブスは1億400万ドルもの利益を計上していたと記載されている。市場規模が小さく、テレビ放映権料も少ない一部の球団はそこまで儲かってはいなくとも、年間1億ドルもの収益分配の恩恵には与っているのだから、資金不足であるはずがない。

 アメリカのメディアは、選手たちの待遇が不当に低くなっていること、各球団がコロナ禍でも莫大な収入を手にしていることを正確に把握していた。だからこそ、ロックアウト期間中も選手会の主張を正当な要求として報道する媒体や記者が大半だった。
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