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堕ちた英雄がWBCで見せた意地の復活劇――イタリア代表マット・ハービーの『ダークナイト・ライジング』<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2023.03.15

ハービー自身はアメリカ出身だが、祖父がイタリア人で代表資格を得た。投手陣では数少ないメジャーでの実績が豊富な選手だ。(C)Getty Images

 3月16日、日本代表はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準々決勝でイタリア代表と対戦する。

 全5チームが2勝2敗で並ぶという、大会史上でも稀に見る激戦となったプールAを生き残ったイタリア。1次ラウンド突破の立役者となったのは、栄光と、どん底を両方味わった男だった。かつてニューヨーク・メッツでエースを務めたマット・ハービーだ。

 現在32歳のハービーは1次ラウンド初戦のキューバ戦、そして最終オランダ戦で先発し、いずれも好投。とくにオランダ戦での4回2安打1失点の好投は、大逆転での2次ラウンド進出につながったとあって、米紙『New York Post』紙電子版は次のように称賛した。

「The Dark Knight has risen at the World Baseball Classic.」(WBCでダークナイトが蘇った)

"ダークナイト"とは、ハービーに奉られたニックネームだ。もちろん、アメコミヒーローのバットマンにちなんでいる。かつての彼は、ゴッサム(ニューヨークの別名)に希望をもたらすヒーローだったのだ。
 
 2010年のドラフト全体7位でメッツ入りしたハービーは、12年7月にメジャーデビュー。100マイル(約160.9キロ)近い剛速球と鋭く落ちるスライダーを武器に、13年に開幕からローテーションに定着すると、いきなり5連勝。7月に地元シティ・フィールドで行われたオールスターではルーキーながら先発に抜擢され、一躍ニューヨークのスターにのし上がった。ハービーの登板日にはシティ・フィールドにファンが大挙して詰めかけ、まさに一大フィーバーの様相を呈していた。

 14年にはトミー・ジョン手術を受けて全休したが、15年には13勝、防御率2.71の好成績で15年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献。ワールドシリーズ第5戦では9回途中まで1失点の快投を見せ、ニューヨークのファンから大喝さいを受けた。

 まさに栄華を極めていたハービーだが、この時を頂点にキャリアが暗転する。

 16年は右肩の故障で調子が上がらず、8月に手術を受けてシーズン終了。17年は防御率6点台と大不振に陥った。
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