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プロ野球

大谷翔平の“膝つき弾”がもたらした価値。阪神・才木浩人を変えた開幕前の1球「絶対に空振り三振だと思った」

チャリコ遠藤

2023.04.15

三振を奪いに行った“伝家の宝刀”を捉えられた才木(35番)。この時、彼の前に立ちはだかった大谷は、膝をついて、体勢を崩されていたが、スタンドにまで運んだ。(C)Getty Images

三振を奪いに行った“伝家の宝刀”を捉えられた才木(35番)。この時、彼の前に立ちはだかった大谷は、膝をついて、体勢を崩されていたが、スタンドにまで運んだ。(C)Getty Images

 稀代のスラッガーに浴びた1本のホームランが、24歳の若武者を「進化」と「停滞」の渦に巻き込んだ。阪神タイガースの才木浩人だ。

 この春、才木は決断を迫られていた。開幕ローテーション入りを決め、レギュラーシーズンを前にした最後の調整登板となった3月26日のオリックス・バファローズ戦(京セラドーム)は、2被弾するなど5回4失点を喫した。試合後に愛車の前で立ち止まった右腕の表情には迷いがにじんでいた。

「フォークが“ヘボ”すぎるんで。一向に良くならないんですよね」

 最速157キロのストレートに加えて才木の勝負球と言えるのがフォークだ。追い込んでからの1球でこれまでも幾多のバッターを斬ってきた。そんな「伝家の宝刀」の切れ味がどうもおかしいという。この日も、森友哉らバファローズの打者に「良い所で落ちてるはずなのに打者に『あ、フォークだ』と思って見られてる感じ」とウイニングショットを見切られてしまった。

「前のフォークに戻すのも手かなと」

 実は改良中のフォークを試していた。キッカケとなったのは、3月6日に行なわれた日本代表との強化試合(京セラドーム)だ。
 
 この試合で先発マウンドに立った才木は、侍ジャパンに合流してから初実戦となった大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)と対峙した3回2死一、二塁で、カウント1-2からフォークをバックスクリーンまで運ばれた。これが心を大きく揺さぶる一撃となった。

 思い描いた通りの軌道で落ちていったフォークに対し、大谷は左膝をつき、体勢を崩されながらも片手で振り抜いた。才木曰く「ベストボール」という球だった。

「絶対に空振り三振だと思った。真っ直ぐでしっかりファウルを取って良い形で追い込んだ後に片手であそこまで打ち返されてしまったので。初見のフォークを打たれてしまったのでとても悔しい」

 おそらくキャリアにおいて自慢のフォークを、あそこまで崩れた体勢で捉えられ、スタンドまで運ばれた経験などなかったのではないか。才木にとって、初回に大谷を直球で空振り三振に仕留めたシーンよりも、この被弾の方が影響は大きかった。

 そこで着手したのが、新たなフォークの習得だった。元々、従来より速いものへのマイナーチェンジを目論んでいたタイミングでもあり“旧フォーク”を大谷に仕留められたことが決断を後押しした。

「スライダー気味に落ちていたのを、球速を上げてスプリット気味にしました。大谷さんに打たれて悔しかった。対戦できたことをプラスにしたかった」

 侍ジャパンとの試合後に「時間を戻したい」と口にするほど悔しさを露わにした才木だが、経験を糧にすることも忘れていなかった。翌日からスプリットの使い手でもある同僚のジェレミー・ビーズリーにも助言を授かり、ボールを挟む中指と人差し指の間隔を狭めるなど微調整を敢行した。

 はたして効果は早々に現れた。中5日で登板した3月12日のジャイアンツ戦(甲子園)で試投すると2回に丸佳浩から空振り三振を奪取。球速も139キロと大谷に打たれたボールから3キロの球速アップに成功。「理想は145キロ。まずは140キロを目指す」と一定の手応えを得ていた。
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