MLB

MLBの不文律をめぐる「あいまい」な領域。マイコラスの故意死球退場処分は果たして正しかったのか<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.07.31

マイコラスは女房役のコントレラス負傷後、ハップへの死球が故意と判断されて退場処分を受けた。(C)Getty Images

 真夏のセントルイスは、日中の気温が体温と同じぐらい高くなり、ミシシッピー川に面しているため、湿気も高い。7月26日、ブッシュ・スタジアムで行われたカーディナルス対カブスのシリーズ初戦も、そんな不快な気候の中で行われた。

 カブスが5連勝中だったせいか、球場があるダウンタウンの通りには、カーディナルスの赤ではなく、カブスの青を身にまとった野球ファンの姿が目立った。思い込みというのは恐ろしい、と思いつつも、実際に球場で取材を始めるとカブス側、つまり三塁側のベンチ裏には圧倒的多数の「青い軍団」がいたりして、彼らの威勢のいい声に気圧される自分に気づく。

 その日、私のような日本人メディアにとっての取材の優先順位は、①鈴木誠也外野手(カブス) ②ラーズ・ヌートバー外野手(カーディナルス) ③マイルズ・マイコラス投手(カーディナルス)だった。②には「WBC日本代表優勝メンバー」、③には「元巨人」という注釈が付く。残念ながら、カブスの先発で今年のオールスターにも出場した左腕ジャスティン・スティール投手との相性が悪いとかで、②ヌートバーはスタメンを外れたので、これが大喜利ならば「①鈴木対②マイコラス」が、その日の「お題」ということになる。

 ただし、それは実現しなかった。

 なぜなら、マイコラスが打者わずか3人、14球で「危険球」を投げたとして、退場処分を受けてしまったからだ。
 試合が始まり、カブスの1番マイク・トークマンを見逃し三振、2番ニコ・ホーナーを中飛に打ち取ったマイコラスは、3番イアン・ハップに対し、ボールが2つ先行した。いわゆる、バッティングカウントだ。3球目、マイコラスは膝下ぐらいの絶妙の高さに、とても効果的なスライダーを投げた。速球でストライクを取ってくると予想したのだろう。ハップのバットは大きな弧を描いて、空振りした。

 その直後に「事件」は起きた。

 ハップは元々、フォロースルーの大きな選手だが、そのバットの先端が、カーディナルスのウィルソン・コントレラス捕手の右側頭部を直撃してしまったのだ。ベンチから飛び出したトレーナーが、タオルでコントレラスの側頭部を抑えたところを見ると、どうやら出血しているようだった。起き上がって苦笑いすら浮かべたものの、捕手交代となって試合が再開された。

 ハップとコントレラスは、カブス時代の長年のチームメイトであり、お互いを友人と呼ぶ間柄だ。コントレラスが退場する時にはハグして声をかけ、何となく「これで終わりかな?」という雰囲気もあった。

 ところがコントレラスが退場した直後の4球目、マイコラスは内角高めに速球を投げた。仰け反って避けたハップは無表情だったが、一塁側ダッグアウト=カブスファンの観客が、敵地にもかかわらず、マイコラスに向かってブーイングしたのが聞こえた。
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「そこまでする?」と思いつつも「しょうがないよね」と納得