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高校野球

初戦は甲子園、2戦目はドームと併用、準決勝・決勝は甲子園――これなら猛暑と酷使対策を両立できる【出野哲也の甲子園改革案】<SLUGGER>

出野哲也

2023.08.22

これまで紡いできた伝統と時代の要請の間でどうバランスを取るかが問われている。写真:THE DIGEST写真部

これまで紡いできた伝統と時代の要請の間でどうバランスを取るかが問われている。写真:THE DIGEST写真部

 夏の高校野球全国大会は、このまま甲子園で開催し続けるべきなのか? ここ数年の異常なほどの暑さもあって、その是非をめぐる議論が盛んになっている。100年以上続いてきた伝統、甲子園の土を踏むことに対する球児の想いと、実際に取り返しのつかないような事態に至ってからでは遅い、との危惧がぶつかり合って、容易に改善策は見当たらない。

 今大会から5回終了後に10分間のクーリングタイムを設けるなど、日本高野連も何の手も打っていないわけではない。実際、かつては京セラドーム大阪を併用する案が検討されたこともあったという。最初の1試合は全校が甲子園でプレーし、2戦目では一部ドームを使うという構想だった。これならどの学校も「甲子園でプレーした」という満足感は得ることができる。しかしながら試合会場が2ヵ所になると、経費もスタッフも2倍に増やさなければならなくなるため、実現には至らなかったというのだ。

 すべての試合を甲子園で行い、かつ最も暑さの厳しい真昼を避けるには、午前中に1戦目、夕方に2戦目、ナイターで3戦目の1日3試合とすればいいのでは、との意見もある。しかし、ナイターはともかく、8月ともなれば午前中の段階ですでに猛暑。第1試合が長時間の延長になれば午後に突入してしまう可能性もあるし、逆にナイターの第3試合が深夜に及ぶこともあり得るだろう。

 そもそも1日3試合しかできないとなると、全体で3日間日程が延びる計算になる。3日くらいどうってことないのでは? というのは考えが浅いようで、出場校の滞在費、応援団の旅費などは、遠方の学校だと数千万円単位になるとされる。学校側としては勝ち残ってほしいのはやまやまでも、滞在日数は少しでも減らしたい――というのが本音なのだ。だからと言って、投げ過ぎを防ぐために設けている休養日を今さらなくすわけにもいかない。

 このように、暑さと投げ過ぎの両方から高校生を守り、かつ甲子園で全日程を消化するには、現行の17日間では少なすぎるわけだ。これを解消するには、2つ方法がある。1つは開催時期を再検討すること。開幕日を前倒しした上で、閉幕も後ろへずらして余裕を持たせる。準決勝と決勝を9月の最初の土・日に行うイメージだ。必ず全試合を夏休み期間中に行わなければならない、ということはないはずだ。

 これでは大会が間延びする印象は拭えない。盛り上がりに水を差すことになる、と危惧する向きもあるだろう。けれども、例えば同じ高校生の全国大会でもサッカーなどは毎日ではなく、1~2日の間隔を空けて試合をしているのだから、それ自体は慣れの問題だ。
 
 それより深刻なのは、9月でも上旬だとまだ相当気温が高いことだ。昨年を例にとると、甲子園に近い兵庫県神戸市では、9月の第1週でも最高気温33度以上の日が3日もあった。8月の第4週とほとんど変わらなかったのだ。これでは時期をずらしたところで大して意味がない。本格的に暑さを避けるとしたら秋以降に開催するしかないが、それでは受験勉強などに差し障りが生じ、「教育の一環」というお題目にふさわしくなくなる。

 もう一つの案は、出場校数を減らして日程を緩和する、というものだ。今では各都道府県から必ず1校は代表が出るのが当然となっているが、1977年までは「北関東」「西九州」など、地域ごとに代表決定戦を行っていた。そのため代表校数も今より少なく、毎年40校以上出るようになったのは76年以降である。少子化と野球人口の減少で、地方予選の参加校数も減り続けている(ここ5年で約300校減少)しているのだから、ダウンサイジングするのは理にかなってもいる。

 ただし、半世紀近くも「1県1代表」制度に慣れ親しんできたことを考えると、統合の対象となる県を中心として反対意見はかなり多いだろう。それこそ高校野球の、さらには野球全体の人気低下に拍車をかけることになりかねないとあって、これも実現性は低い。

 暑さと投げ過ぎの問題は甲子園に限った話ではなく、地方予選にも同じことは言える。だが予選では、試合会場に関してはどうにかなる。これが全国大会となると「甲子園」というブランドがあまりに強く、解決を阻害する要因にもなっているのだ。

 高校野球は誰のための大会なのか? もちろん高校生に決まっている。だから彼らが言う「甲子園でプレーしたい」という目標は奪ってはならない。けれどもその思いを尊重しつつ、周囲の大人たちが選手、そして応援に駆り出される生徒たちの健康と生命を守るための措置は、絶対に必要だ。

 となれば結局は、日本高野連が一旦は断念した「全校1試合は(真っ昼間を避けて)甲子園、2試合目以降はドームを併用」し、準々決勝以降は再び甲子園に戻るのが、一番納得のいく方法ではないか。そのためには費用がどう、スタッフがこうなどと言っていられない。「このままでは良くない」との思いは誰もが持っている。手遅れにならないうちに、実施に移すことを検討すべきだろう。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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