高校野球

「黒木がどこで出てきても、打つことが勝利につながる」――相手の継投策を打ち破った仙台育英が2年連続の決勝へ【氏原英明が見た甲子園:第12日】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.22

仙台育英を2年連続の決勝に導いた須江監督。2004~05年の駒大苫小牧以来の夏連覇なるか。写真:鈴木颯太朗(THE DIGEST写真部)

 仙台育英の6番打者・鈴木拓斗が捉えたのはスライダーだった。

「試合前から抜けてきたスライダーを狙って行こうと思っていました。ただ、(相手投手の黒木陽琉は)ストレートが来ていたので、詰まらないように意識しながら抜けたスライダーを待っていた」

 そう振り返った鈴木の打球は、バックスクリーン右に飛び込む2ランになった。試合序盤だったとはいえ、この本塁打が持つ意味は大きかった。

 準決勝の第1試合、神村学園VS仙台育英の試合は、継投が勝負の分かれ目になるのは明らかだった。

 両チームとも、複数の投手で勝ち上がってきていた。特に、ほとんどの試合でクローザー的な役割を務めてきた神村学園のサウスポー黒木の存在は、両チームにとって大きなものだった。

 神村学園の指揮官・小田大介が話す。

「相手が良い投手ばかりですので、ロースコアのゲームにしなければと思っていました。1対1の同点にされた後、これ以上点を取られたくなかったので、早めに黒木を登板させました」
 
 どの場面で黒木を投入し、勝利に導いていくのかを考えるのが神村学園。一方、黒木がどこで出てこようとも、打つことが勝利につながるというのが仙台育英だった。

「最大級に警戒していた」と黒木について語ったのは仙台育英の須江航監督だった。

「あんなに早く出てくると思っていなかったんですけど、相手は勝負を仕掛けてきたので、こちらは中途半端なことをしないで狙い球を徹底していくしかないと思いました。(中略)変化球が多い投手ですけど、割り切って行こうと。ストレートを狙うなら、ひたすらストレートを狙うという風に。ポイントを前にして気持ちいいバッティングをしても仕方ない。どん詰まり、先っぽ、ボテボテでいいくらいの割り切りが必要だなと思っていました」

 黒木がマウンドに上がったのは仙台育英が同点に追いついた後の2回裏2死二塁の場面。左打者の住石孝雄を迎えた時だ。ここで得点はならなかったが、3回から仙台育英打線は見事に対応したのである。

「先頭の山田が三遊間を破ったので、右打者がポイントになるのかな」との須江監督の予測は的中。3回裏、先頭の山田脩也がレフト前ヒットで出塁。すぐさま盗塁を決めた。この後に1死となったものの、守備側のミスでランナーが三塁に進んでチャンスが拡大したところで、4番・齋藤陽がスクイズを決めて勝ち越し。このスクイズが野選となって齋藤が一塁に残ると、5番の尾形樹人もヒットでつなぎ、バッテリーエラーでこの回2点目が入る。この直後、黒木の浮いたスライダーを鈴木が一閃し、一挙4点を挙げる猛攻を完成させた。

 須江監督から「ストレートと変化球のどちらかを狙え」と指示されていたとはいえ、2番の山田いわく「(黒木は)7割がスライダーだった」。多くの打者の狙いは定まっていたようで、鈴木の2ラン本塁打はそうして生まれたのだった。
 
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「昨年とは異なる勝ち上がり方だった」