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プロ野球

シリーズの流れを引き戻す「湯浅の1球」を引き出した、岡田監督の采配に脱帽した夜<SLUGGER>

氏原英明

2023.11.02

久々の甲子園での登板は日本シリーズの大舞台。それでも湯浅(写真)に腕を振らせたのが指揮官の采配の妙だった。写真:産経新聞社

久々の甲子園での登板は日本シリーズの大舞台。それでも湯浅(写真)に腕を振らせたのが指揮官の采配の妙だった。写真:産経新聞社

 その声は悲鳴であり、歓喜であり、声援だった。

 日本シリーズ第4戦の8回表、2死一、三塁のピンチで阪神の投手交代がコールされると、甲子園球場はさまざまな感情が入り混じった声援が響いていた。

 そして、コールされたピッチャー、湯浅京己がマウンドに上がると様々な感情の声援は「祈り」に変わり、甲子園は一つになった。

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「本当に6月以来の登板でぶっつけ本番だったんですけど、湯浅が出てくると、ファンの声援で甲子園の雰囲気が変わると思った。湯浅に賭けました」

 阪神の岡田彰布監督は、起用の意図をそう説明した。

 簡単な決断ではなかった。何せ、湯浅は10月にフェニックス・リーグに参戦していて、ほんの2日前にチームに合流したばかりだった。

 湯浅は今年、世界一に輝いたWBCメンバーだった。昨季の活躍が評価されて侍ジャパンの一員として戦ってきたが、チームに戻ってからは良い状態は続かなかった。
 
「湯浅はもう使わない」との指揮官の言葉さえ報じられたほどだったが、フェニックス・リーグでの活躍を受けて招集されていたのだった。
 
 日本シリーズでは、この日が初めてのベンチ入り。勝利に貢献できたらと意気込んでいたとはいえ、8回2死一、三塁の窮地でいきなり声がかかった。

 マウンドに上がった湯浅は、オリックスの1番・中川圭太への初球に力を込めたストレートを投げ込むと、セカンドフライに仕留めた。たった1球のベストピッチだった。ベンチに戻りながらガッツポーズを作る湯浅の姿に、地響きのするような歓声と拍手が甲子園にこだました。

 湯浅は話す。

「やっぱりみんなでつないでいたので、あそこをゼロで抑えたらいい流れも来ると思ってたんで。どんな形でもいいんで絶対抑えようと思っていました。甲子園で久しぶりにこういう形で投げて、 本当にファンの方の声援は温かいなって思いましたし、 やっぱり甲子園でしか味わえないと思うので、 ファンの方の声援を力に変えて抑えることができたかなと思います」

 試合は湯浅の後を継いだ岩崎優が無失点で切り抜けると、その裏、阪神は1死から近本光司の四球を皮切りに好機を作った。オリックスの満塁策の後、前日からチャンスで凡退ばかりしていた大山悠輔が三遊間を破る適時打を放ち、サヨナラ勝ちした。

 当然、8回表の湯浅の1球のベストピッチングが甲子園をひとつにしたのは間違いが、やはり百戦錬磨の指揮官、岡田監督の導きも忘れてはいけない。

 この試合は1回裏に森下翔太の適時打で先制した阪神が先に主導権を握ったが、難しい試合ではあった。2回表に同点に追いつかれ、2回と4回と1点ずつを奪った時も、好機を作りながら内野ゴロの間に得点したもので、勢いがつくものではなかったのだ。

 一方で7回表には、佐藤輝明のエラーを皮切りに同点に追いつかれていた。とても嫌な展開だった。

 それでも踏みとどまっていたのは、岡田監督の采配が選手に活力を与えたからだった。
 
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