7回の同点劇の後、さらに森友哉に投手強襲の内野安打を打たれ、岡田監督は左腕の桐敷拓馬から石井大智にスウィッチした。だが、同時に三塁の佐藤をベンチに下げたのだ。
なぜなら、7回裏は9番から始まるイニングだった。投手をそのまま入れては、結局代打が必要になる。石井をワンポイントのみの役割を終えさせるわけにはいかず、指揮官は考えたのだ。
岡田監督は言う。
「そう、イニングまたぎになるからな。次はピッチャーからだったから。 それはまあ、シーズンやったら普通にいけるけど、短期決戦やからな、やっぱりな」
エラーをした佐藤にお灸を据えたわけでも、奮起を期待して交代させたわけでもなかった。負けられない戦いの中で、最善手を打ったのだ。
石井は結局、イニングを跨ぎ3つのアウトを取った。ピンチを招いて結局は島本浩也にバトンを渡したが、役割は十分に果たしたと言える。
その島本が打者1人をサードゴロに抑えた後、湯浅が投入されたのである。
いわば、球場を一つにしたシーンは岡田監督の的確な采配から生まれたと言って良かったのだ。
湯浅からしても、1人を抑えるだけで良かった。6月以来実に5ヵ月ぶりの登板となると、ピッチャーはいろんなことを考えてしまうものだが、場面が場面だけに、とにかく腕を振ることが最優先だった。
「経験の少ない投手はイニング途中から投げさせるっていうのも時にはいいんですよ。抑えたら自信になるし、打たれても自分に失点がつくわけでもない。交代させられた投手は失点のリスクは背負いますが、自分が最後に打たれたわけではないのて、そう落ち込まない。ロッテ時代のバレンタイン監督はそういうのを分かってやってましたね」
かつてロッテのリリーバーとして活躍した荻野忠寛の話だ。
湯浅の交代のタイミングは絶妙だったのだ。
「これで明日からも湯浅は普通に使える」
指揮官はそう自信を口にしたが、ここ一番の采配がチームを救い、これまで苦しんできた湯浅を救い、日本シリーズの趨勢さえも変えようとしている。
「ああいう場面で投げさせてもらえることはすごいありがたいですし、 本当にシーズン中は全然チームの力になれなかったので、 本当に少しでも日本シリーズで力になれればなと思って準備してきたので、 結果的に一球でしたけど良かったかなと思います」
甲子園を一つにした湯浅の登板。
心を震わるかのように歓喜に沸いていた阪神ファンの様子を眺めながら、背中にぞくっとしたものを感じた名場面だった。
文●氏原英明
【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。
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岡田監督は言う。
「そう、イニングまたぎになるからな。次はピッチャーからだったから。 それはまあ、シーズンやったら普通にいけるけど、短期決戦やからな、やっぱりな」
エラーをした佐藤にお灸を据えたわけでも、奮起を期待して交代させたわけでもなかった。負けられない戦いの中で、最善手を打ったのだ。
石井は結局、イニングを跨ぎ3つのアウトを取った。ピンチを招いて結局は島本浩也にバトンを渡したが、役割は十分に果たしたと言える。
その島本が打者1人をサードゴロに抑えた後、湯浅が投入されたのである。
いわば、球場を一つにしたシーンは岡田監督の的確な采配から生まれたと言って良かったのだ。
湯浅からしても、1人を抑えるだけで良かった。6月以来実に5ヵ月ぶりの登板となると、ピッチャーはいろんなことを考えてしまうものだが、場面が場面だけに、とにかく腕を振ることが最優先だった。
「経験の少ない投手はイニング途中から投げさせるっていうのも時にはいいんですよ。抑えたら自信になるし、打たれても自分に失点がつくわけでもない。交代させられた投手は失点のリスクは背負いますが、自分が最後に打たれたわけではないのて、そう落ち込まない。ロッテ時代のバレンタイン監督はそういうのを分かってやってましたね」
かつてロッテのリリーバーとして活躍した荻野忠寛の話だ。
湯浅の交代のタイミングは絶妙だったのだ。
「これで明日からも湯浅は普通に使える」
指揮官はそう自信を口にしたが、ここ一番の采配がチームを救い、これまで苦しんできた湯浅を救い、日本シリーズの趨勢さえも変えようとしている。
「ああいう場面で投げさせてもらえることはすごいありがたいですし、 本当にシーズン中は全然チームの力になれなかったので、 本当に少しでも日本シリーズで力になれればなと思って準備してきたので、 結果的に一球でしたけど良かったかなと思います」
甲子園を一つにした湯浅の登板。
心を震わるかのように歓喜に沸いていた阪神ファンの様子を眺めながら、背中にぞくっとしたものを感じた名場面だった。
文●氏原英明
【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。
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