プロ野球

佐藤、伊藤、村上、中野、石井...阪神38年ぶりの日本一を支えた20年ドラフト組の活躍。成功の要因は「長所を見抜く力」<SLUGGER>

西尾典文

2023.11.14

1位の佐藤輝(左)だけでなく、5位の村上(中)、6位の中野(右)も主力としてチームに貢献。20年ドラフトの成功が38年ぶり日本一に直結した。写真:野口航志

 38年ぶりとなる日本一を達成した阪神。その要因はもちろん一つではないが、近年のドラフト戦略の成功が大きいのは間違いない。現在の主力の大半は過去10年のドラフトで指名されて入団してきた選手であり、スカウティングに関しては12球団でも一、二を争う成果を上げていると言える。

佐藤は一体何位だった?2020年のドラフト候補ランキングトップ50

 中でも見事だったのが2020年のドラフトだ。この年は支配下で8人を指名しているが、佐藤輝明(1位)、伊藤将司(2位)、村上頌樹(5位)、中野拓夢(6位)、石井大智(8位)の5人がそれぞれ欠かせない戦力として今季の優勝に貢献した。ドラフトも打率と同じで「3割当たれば成功」と言われているだけに、入団からわずか3年でここまでの結果が出ているのは驚きである。

 では、彼らのプロ入り前の評価はどんなものだったのだろうか。まず1位の佐藤輝明は早川隆久(早稲田大→楽天)と並んで最多となる4球団が競合しているように、野手の目玉であったことは間違いない。新型コロナウイルス感染拡大の影響で4年春のリーグ戦が中止となりながらも、関西学生野球のリーグ記録を更新する通算14本塁打を放っており、そのパワーは当時から高い評価を得ていた
 
 一方でリーグ戦81試合で69三振を喫しており、3年秋には不振で打率1割台と確実性に課題があったことも事実だ。それでも入団後に小さくまとまることなく、三振が多くてもホームラン、長打が打てれば良いという首脳陣の方針で伸び伸びとプレーさせたことが、1年目からの活躍につながった要因と言えそうだ。

 そんな佐藤以上に驚きの活躍を見せたのが2位の伊藤である。名門・横浜高校では2年時から主戦となり、国際武道大でも4年間で24勝をマークしているが、スピードは140キロ台前半で投球に凄みは感じられなかった、社会人のJR東日本でもその印象は大きく変わることはなく、ドラフト前に上位候補して紹介されていたわけではない。

 実際、1年目に伊藤が活躍した後に、他球団のスカウトからなぜ2位という高順位で指名した理由をアマチュア野球の現場で聞いたこともある。それでもプロで成功している大きな要因と思われるのが、調子の波の少なさだ。

 20年はコロナ禍で公式戦も少なく、その中でオープン戦を積極的に行っていたJR東日本の試合を見る機会は多かったが、伊藤はいつ見ても相手打線を圧倒するようなことはなくても、大きく崩れるようなケースは一度もなく、常にしっかりと試合を作っていたのだ。長いシーズンを戦うプロでこの能力は貴重であり、阪神がそれを高く評価したことが奏功したと言える。
 
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