侍ジャパン

「選手のスカウティング能力」「解説業で培った野球理論」…新生・侍Jの初陣は“井端色”が濃く出た会心勝利【アジアCS】<SLUGGER>

氏原英明

2023.11.17

初陣を飾った侍ジャパン井端新監督。選手起用にも井端らしさが垣間見えた。写真:鈴木颯太朗

 彼の頭の中には辞書のように細かい選手評がびっしり詰まっているのが窺えた。

 例えば、第2先発として2イニングをピシャリと抑えた根本悠楓(日本ハム)についてこう評した。

「レギュラーシーズンを見ていると、立ち上がりからひと回りは相手バッターがほとんど手も足も出ない状態で抑える。一方でふた回り目の4、5回ぐらいに捕まる傾向があったんで、初対戦ではひと回りは確実に抑えてくれると考えて、まず第2先発に決めました」

 根本の投球フォームのキレのある体の回転に魅力を感じる侍ジャパンの井端弘和監督は「鍛えて、長いイニングで持ちようになれば日本を代表するピッチャーになる」とまで言い切ったのだった。
 
 今年3月にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制覇してから初の公式戦となった侍ジャパンが、アジアチャンピオンシップの初戦・台湾戦に勝利した。指揮官の井端にとっても、幸先の良い船出となった。

 井端新監督が指揮官として能力の片鱗を見せたのは選手のスカウティング能力と、長年の解説業などで培った野球理論だ。この日は、それらがうまく機能して、チームを勝利に導いた。

 試合はどちらかというと劣勢の展開だった。先発の赤星優志(巨人)は内外にしっかり投げ分けゲームメーク。シュート系のストレートを巧みに使うピッチングで危なげなかった。ただ、その赤星のピッチングが目立たないくらい、相手先発グーリン・ルェヤンが抜群に良かったのだ。

 台湾の若き剛腕が投じる150キロのストレートとパワーカーブを中心に組み立てて、まともにスイングをさせてくれない。6回1死、門脇誠(巨人)がチーム初安打を放つまで、完全投球を見せてきたのだ。

「四球は期待できないなと思いました。ストライクゾーンで勝負できるピッチャー。序盤は重苦しい空気でしたね」

 井端監督もそう振り返るほどの劣勢の中、5回裏に2死二塁のピンチを招くと指揮官はすかさず動いた。それまで好投を続けていた赤星の交代を告げ、サウスポーの及川雅樹(阪神)をマウンドに上げたのだった。

 この継投策がはまり、及川はリン・シャオチェンを空振り三振に封じてピンチを防いだ。0対0の均衡が続く試合展開は「先制点をやれない」と考えたのだろう。48歳の若き指揮官が示した、この継投策も筋が通っていた。
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継投策の意図とは?「思い切って変える準備をしていた」