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MLB

「自分が大金にふさわしいことを証明したかった」山本由伸に抜かれるまで投手の史上最長契約記録保持者だった男の“悲劇”<SLUGGER>

出野哲也

2023.12.25

山本がドジャース入りするまで、投手で10年以上の契約を獲得したのはこのガーランドが史上唯一だった。(C)Getty Images

山本がドジャース入りするまで、投手で10年以上の契約を獲得したのはこのガーランドが史上唯一だった。(C)Getty Images

 ある意味では、大谷翔平以上の衝撃だったかもしれない。オリックスからポスティング・システムでのメジャー移籍を表明していた山本由伸。12月21日に大谷と同じドジャースへの加入が決定したが、契約額は当初の予想を大きく上回るものだった。総額3億2500万ドルは投手としての史上最高額(二刀流の大谷を除く)。そして12年間という契約期間も、投手としては最長となった。昨年ア・リーグのサイ・ヤング賞を受賞したゲリット・コール(ヤンキース)でさえ9年3億2400万ドルであり、メジャーで1球も投げていない投手としては真に破格である。

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 ところで、山本以前に最も長期間の契約を結んでいた投手は誰だったのか? 答えは1977年にインディアンス(現ガーディアンズ)が10年契約で獲得したウェイン・ガーランド。10年以上で契約した投手は、これまで彼がただ一人の例であった。

 と言っても「ガーランドって誰?」というのが大方の反応ではなかろうか。それもそのはず、通算成績は55勝66敗、防御率3.89。サイ・ヤング賞どころか個人タイトル、そしてオールスター出場経験すら一度もない。そんな平凡な投手が、どうして45年間も破られなかったほどの長期契約を手にできたのか?
 長い間移籍の自由がなかったメジャーリーガーが、熾烈な労使闘争の末に初めてフリーエー・ジェントの権利を認められたのは76年オフで、多くの有力投手がFAとなって市場に出た。2年連続世界一になったレッズのエース、ドン・ガレットは6年200万ドルでヤンキースへ加入。72~74年に3連覇したアスレティックスの抑えの切り札、ローリー・フィンガーズは6年160万ドルでパドレスへ移った。ガーランドはこれらのビッグネームよりも格下だったのだが、インディアンスは10年230万ドルと総額で彼らを上回る条件を提示し、パイレーツ、カーディナルスとの争奪戦を制した。年俸23万ドルは前年のちょうど10倍であった。

 75年までのガーランドは、オリオールズのどうということのないリリーフ投手だった。だが、76年に先発ローテーション入りすると、カーブ、スライダー、スクリューボールなど多彩な変化球を駆使し、リーグ3位の20勝。防御率2.67も6位と飛躍の年を過ごした。

 盗塁王6度の名選手モーリー・ウィルスはガーランドについてこのように語っていた。

「いろいろな球を投げるけど、一番印象的なのは速球だ。とても落ち着いていて、コーナーを突こうとしたりせずに打者と勝負してくる」。この時点で25歳という若さも魅力だった。まだメジャー歴は4年しかなかったが、76年は契約を結ばずに投げていたため、FAとして認められたのである。

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