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MLB

「自分が大金にふさわしいことを証明したかった」山本由伸に抜かれるまで投手の史上最長契約記録保持者だった男の“悲劇”<SLUGGER>

出野哲也

2023.12.25

 ガーランド自身もこの契約金額には当惑していた。「代理人から数字を聞いた時は『いや、俺にはそれほどの価値はないよ』と言ったんだ。そのあと母親に『200万ドルもらうことになった』と電話したら、返事はこうだった。『おまえにそれほどの価値があるのかい?』」

 本人でさえ懐疑的な好条件であっても、インディアンスにはそれを提示する理由があった。75年まで7年連続勝率5割未満と低迷していたが、76年は4位とはいえ81勝78敗と勝ち越し、さらに上を目指そうと意気込んでいたからだ。ただ、16勝でチームの勝ち頭だったパット・ドブソンは34歳、13勝のジム・ビビーも31歳。同じく13勝を挙げていた21歳のデニス・エカーズリーとともに、長く柱となれる投手を求めており、ガーランドはその条件に合致していたのだ。

 インディアンスのフィル・セギーGMは「我々は最初から、故障の多いガレットよりガーランドを評価していた」と述べたが、これは不吉な予言となった。ガレットもヒジの故障で、ヤンキースでは2年しか投げられなかったのだが、その点はガーランドも大差なかった。77年は13勝こそ挙げたものの、19敗はリーグワースト。続く78年は肩を痛め6試合しか投げられず、手術に至った(執刀医はフランク・ジョーブ博士)。
 復帰後も76年ほどの活躍はできないまま、81年限りで解雇された。インディアンスに在籍したのは5年、契約年数のちょうど半分で、通算28勝48敗、防御率4.50。FA史上最初の、そして最大級の失敗として、ガーランドの名前は後世に残った。

「本当に肩が痛かったのに、球団には信じてもらえなかった。『これだけの金を払っているのだから、それに見合う分だけ働け』と言われて無理して投げ、悪化してしまったんだ。俺自身も、大金にふさわしい投手だと証明したい気持ちはあって、手術からの復帰を急いでしまった」と悔やんでいたガーランド。確かに気の毒な面はあるけれども、大活躍した76年でも奪三振率4.38、K/BBは1.77で、同年は明らかに出来すぎであった。

 日本で何年も好成績を残し続けた山本は、その点はガーランドとは異なるので、実力面での不安はない。とはいえ、これだけの高額契約がプレッシャーにならないわけはない。期待に応えようとして無理しすぎることなく、12年の契約期間を全うしてほしい。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

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