過去7年間で地区優勝6回、プレーオフでは7年続けてリーグ優勝決定シリーズまで進出して世界一にも2度輝くなど、球団史上最高の黄金期を謳歌していたアストロズ。だが、今季は現地6月14日時点で31勝38敗(勝率.449)、ワイルドカード3位まで6ゲーム差と苦戦が続いている。
この、らしくない戦いぶりに「それみたことか」となっているのが、2019年までGMを務めていたジェフ・ルーノーの妻ジーナだ。
13日、X(旧ツイッター)で「アストロズはどうしてこんなに弱くなってしまったのか」とファンがポストしたのに対して、「答えはシンプル。ジム・クレイン・オーナーがうちの夫を解雇したからよ!」とリプライを投げつけるなど大暴れ。ここぞとばかりチームへの恨みをぶちまけている。
ジーナの言う通り、確かに常勝軍団アストロズの礎を作ったのはルーノーだ。名門ペンシルべニア大で経営学を学び、大手コンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て球界入り。すぐに手腕を発揮し、2003年にカーディナルスの球団副社長に抜擢されたが、選手としてのキャリアがなかったこともあり、”会計士”だの”ハリー・ポッター”だのと揶揄された。だが、ルーノーが着実に実績を積むにつれて、そんな皮肉は誰も口にできなくなった。
アストロズに引き抜かれてGMに就任したのは11年オフ。まず着手したのは、MLBからアマチュアまで広範に選手を評価できるデータ分析システムの構築だ。「グラウンド・コントロール」と呼ばれるこのシステムを基にカルロス・コレア(現ツインズ)やアレックス・ブレグマンらをドラフトで獲得したり、チャーリー・モートン(現ブレーブス)ら平凡な選手を主力に”魔改造”したりするなどして、アストロズを着実に強化していった。球団史上初の世界一を達成した17年以降は、「現代GM像の代表例」として持て囃されていたものだ。
ただ能力はともかく、ルーノーの人格にはかなり難があったようだ。カーディナルスのフロント時代から「人を人とも思わない冷酷な性格」が原因で、しばしば周囲と軋轢を起こしていたと言われている。15年にはカーディナルスの球団職員がアストロズのデータベースに不正アクセスする事件が起こったが、その動機は元同僚のルーノーへの怨恨にあったとも言われている。
また、過度な「勝利至上主義」もたびたび批判された。18年のドラフトでは、幼児への性的虐待の前歴を持つオレゴン州立大の投手ルーク・ハイムリックの指名を強行。これは周囲の反対にあって実現しなかったものの、同年7月にはDVで出場停止中だったロベルト・オスナ(現ソフトバンク)を、やはり周囲が制止するのもかまわずトレードで獲得して批判を浴びた。
この「勝利至上主義」の極致といえるのが、19年オフに発覚したサイン盗みだ。これにより、17年の球団史上初の世界一に永遠に汚名が着せられることになってしまった。ルーノーは不正にさほど関与していなかったとされているが、積極的に止めようとしなかったのも事実。管理責任を問われてMLB機構から1年間の職務停止処分が科されると、クレイン・オーナーから即座に解雇され、球界から事実上追放されてしまった。
妻のジーナは怒りをぶちまける一連のツイートで、「チームが長年成功を収めることができたのは誰のおかげだと思ってるの? ついに井戸は枯れてしまった。再び水を満たす方法を教えられる人が誰もいないのよ」と述べている。良くも悪くもルーノーがチームにもたらした勝利のマインドが、徐々に失われつつあるのは確かだろう。我々は一つの時代の終わりに立ち会っているのかもしれない。
構成●SLUGGER編集部
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この、らしくない戦いぶりに「それみたことか」となっているのが、2019年までGMを務めていたジェフ・ルーノーの妻ジーナだ。
13日、X(旧ツイッター)で「アストロズはどうしてこんなに弱くなってしまったのか」とファンがポストしたのに対して、「答えはシンプル。ジム・クレイン・オーナーがうちの夫を解雇したからよ!」とリプライを投げつけるなど大暴れ。ここぞとばかりチームへの恨みをぶちまけている。
ジーナの言う通り、確かに常勝軍団アストロズの礎を作ったのはルーノーだ。名門ペンシルべニア大で経営学を学び、大手コンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て球界入り。すぐに手腕を発揮し、2003年にカーディナルスの球団副社長に抜擢されたが、選手としてのキャリアがなかったこともあり、”会計士”だの”ハリー・ポッター”だのと揶揄された。だが、ルーノーが着実に実績を積むにつれて、そんな皮肉は誰も口にできなくなった。
アストロズに引き抜かれてGMに就任したのは11年オフ。まず着手したのは、MLBからアマチュアまで広範に選手を評価できるデータ分析システムの構築だ。「グラウンド・コントロール」と呼ばれるこのシステムを基にカルロス・コレア(現ツインズ)やアレックス・ブレグマンらをドラフトで獲得したり、チャーリー・モートン(現ブレーブス)ら平凡な選手を主力に”魔改造”したりするなどして、アストロズを着実に強化していった。球団史上初の世界一を達成した17年以降は、「現代GM像の代表例」として持て囃されていたものだ。
ただ能力はともかく、ルーノーの人格にはかなり難があったようだ。カーディナルスのフロント時代から「人を人とも思わない冷酷な性格」が原因で、しばしば周囲と軋轢を起こしていたと言われている。15年にはカーディナルスの球団職員がアストロズのデータベースに不正アクセスする事件が起こったが、その動機は元同僚のルーノーへの怨恨にあったとも言われている。
また、過度な「勝利至上主義」もたびたび批判された。18年のドラフトでは、幼児への性的虐待の前歴を持つオレゴン州立大の投手ルーク・ハイムリックの指名を強行。これは周囲の反対にあって実現しなかったものの、同年7月にはDVで出場停止中だったロベルト・オスナ(現ソフトバンク)を、やはり周囲が制止するのもかまわずトレードで獲得して批判を浴びた。
この「勝利至上主義」の極致といえるのが、19年オフに発覚したサイン盗みだ。これにより、17年の球団史上初の世界一に永遠に汚名が着せられることになってしまった。ルーノーは不正にさほど関与していなかったとされているが、積極的に止めようとしなかったのも事実。管理責任を問われてMLB機構から1年間の職務停止処分が科されると、クレイン・オーナーから即座に解雇され、球界から事実上追放されてしまった。
妻のジーナは怒りをぶちまける一連のツイートで、「チームが長年成功を収めることができたのは誰のおかげだと思ってるの? ついに井戸は枯れてしまった。再び水を満たす方法を教えられる人が誰もいないのよ」と述べている。良くも悪くもルーノーがチームにもたらした勝利のマインドが、徐々に失われつつあるのは確かだろう。我々は一つの時代の終わりに立ち会っているのかもしれない。
構成●SLUGGER編集部
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