球団ワーストの106敗を喫した2023年から一転、今季ここまで40勝31敗と意外な健闘を続けるロイヤルズ。チームを牽引するのは、メジャー3年目の若手遊撃手ボビー・ウィットJr.だ。
【動画】全力疾走で背走キャッチ&振る向きざまに矢のような送球——ウィットJr.のスーパープレーを見よ!
6月14日終了時点で71試合に出場し、11本塁打、19盗塁と持ち前のパワー&スピードを存分に発揮しながら、打率.325と91安打でリーグトップを走っている。
7日のマリナーズ戦では、9回に8点差を追いつく同点タイムリーを放つと、メジャー最高のスプリントスピードを誇る快速を飛ばして頭から三塁に滑り込んだ。本拠地カウフマン・スタジアムは沸きに沸いたが、劇的な逆転を演出した当人はさらりとこう言い残した。
「(プレーを)事前にシミュレーションするようにしている。そうすれば、『何が起きた?』と思わなくてすむからね」――精悍な顔だちに似つかわしい聡明な言葉からは、内面的な素養も優れた成績の礎なのだと思わずにいられない。
19年にドラフト全体2位指名でロイヤルズに入団したウィットJr.は、メジャーデビューを果たした22年にいきなり20本塁打&30盗塁をクリアして新人王投票4位。2年目の昨季は30本塁打&49盗塁を記録してMVP投票7位に食い込み、WBCアメリカ代表にも選ばれた。
名前からも分かるように、ウィットJr.は二世選手だ。同名の父ボビー・ウィットは1984年のロサンゼルス五輪で銀メダル獲得後にドラフト全体3位指名でプロ入りし、メジャー通算142勝。現在はオクタゴン社のエージェントを務める。
父がドラフト全体3位、息子が2位で指名されたことで、ウィットJr.はプロでプレーする前から「ドラフト史上最高順位の父子コンビ」の片割れとして球史に名を残すことになった。近くて大きな存在がプレッシャーにもなったのではと思いきや、ウィットJr.は「父は投手で、僕は野手だから違う道を歩んでいる」と意に介さない。その一方で「父の跡を継いでいる」ことを誇らしく語ってもいる。
3人の姉がいずれもメジャーリーガーと結婚(次姉は元西武のザック・ニール、三姉はオリックスに所属するコディ・トーマスの妻)し、彼らの出場する試合に少年時代から帯同して得られた経験も糧になっているようだ。 今季開幕前、ウィットJr.は球団史上最高額の最大14年3億7770万ドル契約を結んだ。スモールマーケット球団のロイヤルズとしては破格の条件だが、父の名前がマイナスにはならなかったように、巨額の契約にも押し潰されそうにはない。デビュー当初は攻守とも粗さが目立ったが、この2年間で見違えるほど安定感が向上した。
24歳の誕生日に迎えた14日のドジャース戦でも魅せた。3対3で迎えた7回裏、1死一塁の場面でアンディ・パヘスが放ったショート後方へのフライを背走しながらポケットキャッチ。すぐさま二塁手へ返球し、そこから一塁に渡ってダブルプレー。まさに走攻守を備えたオールラウンダーとして躍動している。
ここまで全試合に「2番・ショート」で先発出場し、bWAR4.1とfWAR4.4はともにリーグ3位。WBCアメリカ代表でもチームメイトだったブレイディ・シンガーは「彼は試合を変え、チームを変え、街を変えている」と称賛する。このままチームも自身も好調を維持すれば、低迷が続いてたロイヤルズの「新しい顔」として、シーズン終盤にはMVP候補として名前が上がるだろう。
メジャー16年間で通算430試合に登板した父は、自身のプロ人生を「あっという間で、楽しめなかった」と振り返る。「こうしておけば良かったと思うことばかり」だったから、息子には「全力を尽くして楽しんでほしい」と願っている。
ただ、現在のウィットJr.を見ていると、そのような心配は無用のようにも見える。ガナー・ヘンダーソン(オリオールズ)、エリー・デラクルーズ(レッズ)などダイナミックな若手遊撃手が続々台頭する中、このウィットJr.が「球界最高のショートストップ」の称号を得る日はそう遠くないかもしれない。
文●藤原彬
文●藤原彬
著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。
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6月14日終了時点で71試合に出場し、11本塁打、19盗塁と持ち前のパワー&スピードを存分に発揮しながら、打率.325と91安打でリーグトップを走っている。
7日のマリナーズ戦では、9回に8点差を追いつく同点タイムリーを放つと、メジャー最高のスプリントスピードを誇る快速を飛ばして頭から三塁に滑り込んだ。本拠地カウフマン・スタジアムは沸きに沸いたが、劇的な逆転を演出した当人はさらりとこう言い残した。
「(プレーを)事前にシミュレーションするようにしている。そうすれば、『何が起きた?』と思わなくてすむからね」――精悍な顔だちに似つかわしい聡明な言葉からは、内面的な素養も優れた成績の礎なのだと思わずにいられない。
19年にドラフト全体2位指名でロイヤルズに入団したウィットJr.は、メジャーデビューを果たした22年にいきなり20本塁打&30盗塁をクリアして新人王投票4位。2年目の昨季は30本塁打&49盗塁を記録してMVP投票7位に食い込み、WBCアメリカ代表にも選ばれた。
名前からも分かるように、ウィットJr.は二世選手だ。同名の父ボビー・ウィットは1984年のロサンゼルス五輪で銀メダル獲得後にドラフト全体3位指名でプロ入りし、メジャー通算142勝。現在はオクタゴン社のエージェントを務める。
父がドラフト全体3位、息子が2位で指名されたことで、ウィットJr.はプロでプレーする前から「ドラフト史上最高順位の父子コンビ」の片割れとして球史に名を残すことになった。近くて大きな存在がプレッシャーにもなったのではと思いきや、ウィットJr.は「父は投手で、僕は野手だから違う道を歩んでいる」と意に介さない。その一方で「父の跡を継いでいる」ことを誇らしく語ってもいる。
3人の姉がいずれもメジャーリーガーと結婚(次姉は元西武のザック・ニール、三姉はオリックスに所属するコディ・トーマスの妻)し、彼らの出場する試合に少年時代から帯同して得られた経験も糧になっているようだ。 今季開幕前、ウィットJr.は球団史上最高額の最大14年3億7770万ドル契約を結んだ。スモールマーケット球団のロイヤルズとしては破格の条件だが、父の名前がマイナスにはならなかったように、巨額の契約にも押し潰されそうにはない。デビュー当初は攻守とも粗さが目立ったが、この2年間で見違えるほど安定感が向上した。
24歳の誕生日に迎えた14日のドジャース戦でも魅せた。3対3で迎えた7回裏、1死一塁の場面でアンディ・パヘスが放ったショート後方へのフライを背走しながらポケットキャッチ。すぐさま二塁手へ返球し、そこから一塁に渡ってダブルプレー。まさに走攻守を備えたオールラウンダーとして躍動している。
ここまで全試合に「2番・ショート」で先発出場し、bWAR4.1とfWAR4.4はともにリーグ3位。WBCアメリカ代表でもチームメイトだったブレイディ・シンガーは「彼は試合を変え、チームを変え、街を変えている」と称賛する。このままチームも自身も好調を維持すれば、低迷が続いてたロイヤルズの「新しい顔」として、シーズン終盤にはMVP候補として名前が上がるだろう。
メジャー16年間で通算430試合に登板した父は、自身のプロ人生を「あっという間で、楽しめなかった」と振り返る。「こうしておけば良かったと思うことばかり」だったから、息子には「全力を尽くして楽しんでほしい」と願っている。
ただ、現在のウィットJr.を見ていると、そのような心配は無用のようにも見える。ガナー・ヘンダーソン(オリオールズ)、エリー・デラクルーズ(レッズ)などダイナミックな若手遊撃手が続々台頭する中、このウィットJr.が「球界最高のショートストップ」の称号を得る日はそう遠くないかもしれない。
文●藤原彬
文●藤原彬
著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。
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