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高校野球

【甲子園】あらゆる点で隙のない野球、チーム一丸となっての戦い――横浜が昭和、平成に続いて令和の夏も制覇か<SLUGGER>

氏原英明

2025.08.19

 3回戦は、広陵の出場辞退によって勝ち上がった津田学園が相手とあって、チームに緊張が走っていた。エ相手ースの桑山晄太朗は大会屈指の左腕と評判の投手で、一筋縄でいかないことはチーム全体の共通認識としてあった。「攻略が難しい投手だと聞いていましたし、相手チームの2回戦の相手が試合を辞退されて時間が多くあったので、横浜に対して研究もできると頭にあった」と二塁手の奥村凌大は話している。

 そんな大事な試合の前日、先発予定だった織田が胃腸炎の症状で練習を休養。実はブルペンにも入っておらず、当日の登板も村田監督は「かなり悩んだ」と言うほどだったが、本人からの「大丈夫です。僕にいかせてください」という強い主張を受け、マウンドに送り出した。

 そして、その織田が快投を見せる。最初の3イニングをパーフェクトに封じると、6回まで1安打のみに抑えたのだった。打線は3回表、先頭の織田が右翼前安打で出塁、1番の奥村凌が送りバント。2番の為永皓が左翼前安打を放つと、津田学園の左翼手が後逸。バッターランナーの為永が一気に本塁まで生還して2点を先制した。6回には1死から阿部が中前安打で出塁して盗塁を成功。5番の小野の左翼適時打で加点した。

 目立たないがらも、まったくそつのない攻撃だった。守る方では、津田学園の反撃を浴びた7回裏、1死から3連打を浴びたのだが、その3本目は桑山が二遊間に放った強い打球を奥村凌で食い止め、二塁走者の生還を許さず、続く打者を織田が併殺打に仕留めて無失点で切り抜けたのだった。そして8回表には四球からチャンスをつかむと、阿部、奥村頼の連打で2得点。ともにシングルヒットだが、ここでも相手の送球間に二塁を陥れてみせた。
 走・攻・守にまるで隙がない。多くのタレントが擁していながらこれほどの質の高い野球はなかなか見せられるものではない。村田監督は日頃から「5-0が理想の野球」と掲げているが、それを実践したような試合だった。

 村田監督は、この試合でもう一つ、チームとしての成長を感じたと話す。

 それは織田の存在だ。体調不安を抱えていた2年生右腕の先発に際して、チーム全体に声をかけた。もちろん、他の投手の登板準備にも余念がなかったが、織田の好投に他の選手たちが奮起するチーム一丸の戦いに、村田監督は手応えを感じたのだ。

「織田で行くって決めて、その中でみんなが一つになりました。奥村が7回に抜けそうな打球を止めたのがありましたけど、あれが今日の試合を物語っていますね。織田を8、9回で代えようと思いましたが、本人からも代えないでくれと初めて言ってきた。それでも代えようとしたんですけど、これは代えゃいけない試合だなと思ってやめました。チームは織田をマウンドから下ろさないんだという気迫がありましたし、本当にピッチャー、バッテリー、みんなが一枚岩になって戦えた試合だと思う」

 圧倒的な個の力ではなく、チーム全体としてまったく隙がない今年の横浜。昭和、平成に続いて令和の夏も制するのか、正直、負けそうな気配がしない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも
開設している。

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