この対決の価値は、結果だけを見ていては分からない。
2球続けてスライダーを外し、3球目で同じ球種を振らせる。松本は、打者にストライクを意識させながら勝負の主導権を握ろうとした。そこには、経験に裏打ちされた配球の妙味があった。
一方の牧も、ただ来た球を打ったわけではない。3球目のスライダーに手を出して空振りした後、次の球に対応しなければならなかった。155キロの直球を仕留めるには、反応の速さだけでなく、投手との駆け引きの中で準備を整える能力が求められる。
WBCで世界を相手に戦った両者が、日本シリーズで再び対峙する。互いの力を知る者同士だからこそ、1球ごとの意味が重くなる。投手が打者の狙いを外そうとし、打者がその意図を読みながら一瞬の好機を逃さない。
この勝負には、日本シリーズという舞台の醍醐味が凝縮されていた。
試合後、ソフトバンクの小久保裕紀監督は、試合展開について「今日の試合は1対0で勝つ試合だと思っていた」と振り返った。
両先発が粘り強く投げ合い、試合は投手戦として進んだ。ソフトバンクが先制点を奪い、DeNAは緻密な守備で追加点を防ぐ。互いに大きな隙を見せない展開の中で、ソフトバンクが1点を守り切る。指揮官には、そんなゲームの姿が見えていたのだろう。
先制点を奪った場面では、DeNAの守備は際立っていた。走者や打者に応じて守備位置を細かく変え、打球方向を限定しようとする。その網をかいくぐり、ソフトバンクは1死二、三塁の好機で庄子雄大が二遊間へ強いゴロを放つと三塁走者の牧原大成が本塁へ生還したのだった。
小久保監督は、追加点の好機で打席に立った上沢直之に代打を送るか、迷ったという。
「めちゃくちゃ迷いました。でも、今日の試合は1対0で勝つ試合。そう思ったんで、そのまま立たせました」
指揮官の言葉からは、投手陣への信頼と、1点を守り切るというゲームプランが伝わってくる。終盤の継投を含め、1点差を勝ち切るシナリオは十分に描けていたはずだ。
しかし、野球は時に、そのシナリオをたった1球で覆す。
だからこそ牧の一発には意味があった。
ソフトバンクが思い描いた「1対0」の勝利。その筋書きを打ち砕いたのは、主砲の一振りだった。松本の配球も、牧の対応も、互いに譲らない緊張感も、すべてがあの一球に凝縮されていた。
勝敗を分けたのは、最後にはソフトバンクの勝負強さだった。それでも、牧が放った本塁打は、この日本シリーズが簡単には決着しないことを予感させる一撃と言っても言い過ぎではないはずだ。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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一方の牧も、ただ来た球を打ったわけではない。3球目のスライダーに手を出して空振りした後、次の球に対応しなければならなかった。155キロの直球を仕留めるには、反応の速さだけでなく、投手との駆け引きの中で準備を整える能力が求められる。
WBCで世界を相手に戦った両者が、日本シリーズで再び対峙する。互いの力を知る者同士だからこそ、1球ごとの意味が重くなる。投手が打者の狙いを外そうとし、打者がその意図を読みながら一瞬の好機を逃さない。
この勝負には、日本シリーズという舞台の醍醐味が凝縮されていた。
試合後、ソフトバンクの小久保裕紀監督は、試合展開について「今日の試合は1対0で勝つ試合だと思っていた」と振り返った。
両先発が粘り強く投げ合い、試合は投手戦として進んだ。ソフトバンクが先制点を奪い、DeNAは緻密な守備で追加点を防ぐ。互いに大きな隙を見せない展開の中で、ソフトバンクが1点を守り切る。指揮官には、そんなゲームの姿が見えていたのだろう。
先制点を奪った場面では、DeNAの守備は際立っていた。走者や打者に応じて守備位置を細かく変え、打球方向を限定しようとする。その網をかいくぐり、ソフトバンクは1死二、三塁の好機で庄子雄大が二遊間へ強いゴロを放つと三塁走者の牧原大成が本塁へ生還したのだった。
小久保監督は、追加点の好機で打席に立った上沢直之に代打を送るか、迷ったという。
「めちゃくちゃ迷いました。でも、今日の試合は1対0で勝つ試合。そう思ったんで、そのまま立たせました」
指揮官の言葉からは、投手陣への信頼と、1点を守り切るというゲームプランが伝わってくる。終盤の継投を含め、1点差を勝ち切るシナリオは十分に描けていたはずだ。
しかし、野球は時に、そのシナリオをたった1球で覆す。
だからこそ牧の一発には意味があった。
ソフトバンクが思い描いた「1対0」の勝利。その筋書きを打ち砕いたのは、主砲の一振りだった。松本の配球も、牧の対応も、互いに譲らない緊張感も、すべてがあの一球に凝縮されていた。
勝敗を分けたのは、最後にはソフトバンクの勝負強さだった。それでも、牧が放った本塁打は、この日本シリーズが簡単には決着しないことを予感させる一撃と言っても言い過ぎではないはずだ。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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