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プロ野球

「チームのための一打を」巨人の岡本和真が”2年連続30本”以上にこだわり続けたもの

氏原英明

2019.09.22

 さらに、高校時代の岡本が凄まじかったのが、すべての打席において、「自分が決める」という意思を過剰に持たないようにしていたことだ。

 常にチームメイトを信頼し、自分が打たなくてもいいという局面では、後ろの打者に任せた。四球で歩いたり、つなぐバッティングをすることで大量点が入りそうな時は、迷わずにそちらを選ぶことも少なくなかった。「チームバッティングができればいい」と岡本は口にしていたものだった。

 ただ、「チームバッティング」という言葉の意味を、額面通りに受け取っていたわけではない。彼なりに自分が置かれた立場を理解しながらやっていた。
 
 世間一般的に、チームバッティングというと、ヒット狙いや進塁打を打つバッティングを指すことも多い。しかし、岡本はそのバッティングを意識しながらも、勝負どころでの自分がすべき「チームバッティング」が何かは理解していた。

 例えば、2点ビハインドで無死一、二塁のシチュエーションは送りバントや右方向へのバッティングを考えるのが、一般的な「チームバッティング」だ。だが、それは自分に求められてはいないと、岡本は感じていた。厳しいマークを受けながらも、3点本塁打を打つことを意識していた。
 タイプによって、「チームバッティング」の解釈は異なる。
 岡本の場合、チームバッティングが「ホームラン」になることもある。その意識は常に忘れないようにしていたのだった。

 岡本はこう語っている。

「1球に対する意識の持ち方を変えてから、ホームランを打てるようになりました。チームのために打つという気持ちで1球に集中していたら、打球がスタンドに飛んでいる」

 プロに入ってからの岡本の野球観は変わっていないと思う。
 ホームランの数だけを意識して打席に立つようなことはなく、常にチームが頭にある。だから、勝利につながるバッティングができたのであれば、それで彼は仕事を果たしたと満足ができる。

 9月21日、巨人は5年ぶりのリーグ優勝を決めた。
 0−2のビハインドから7回表の口火を切る二塁打を放ち、1点差に迫るホームを踏んだ。そして、延長10回表には、1死一、二塁から右翼フライを放ち、二塁走者を三塁に進めるバッティングを見せた。

 高校時代からスラッガーの宿命を背負った男は、ただただホームランを狙っているわけではない。あの頃の経験をそのままプロに行っても力に変えている。

文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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